最新記事

中東

トランプが「エルサレム首都」認めれば中東は火薬庫に逆戻り

2017年12月4日(月)17時30分
クリスティーナ・メイザ

イスラエル警察がパレスチナ人の男を射殺したことに怒り、武器やハマスの旗を持って東エルサレムを行進するパレスチナ人(2016年1月) Ammar Awad-REUTERS

<トランプがイスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移すと、なぜ大問題なのか>

アメリカのドナルド・トランプ米大統領がもし、イスラエルの米大使館を現在のテルアビブからエルサレムに移転するという公約を実行に移せば、イスラム過激派を暴力に駆り立て、ただでさえ緊張している中東情勢を激しい苦悩の淵に突き落とすことになると、ヨルダンのアブドラ国王が12月1日に警告した。

「米大使館をいま移転すれば、パレスチナやアラブ諸国、イスラム圏の反発を招き、イスラエルとパレスチナの2国家共存による中東和平の実現を脅かす」と、米下院議員との会談でアブドラは語った。アメリカの移転決定を好機と見たテロリストたちが「民衆の怒りや不満、絶望感を煽り、自分たちのイデオロギーを拡散させる」口実に利用するだろうとも言った。

パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスは2日に早速、もしエルサレムに移転するならインティファーダ(民衆蜂起)を呼び掛けると声明を出した。

トランプは12月6日にも米大使館のエルサレム移転を発表する方針と報じられる。ホワイトハウスはまだ何も決まっていないとしながらも、「大統領はかねてから、問題はエルサレムに移転するか否かではなく、いつ移転するかだと言ってきた」と声明を出した。

パレスチナ国家の首都でもある

米大使館をエルサレムに移転すれば、アメリカが同地をイスラエルの首都と認めたことになるため、大きな波紋を呼ぶ。エルサレムは、ユダヤ教の聖地であると同時にイスラム教やキリスト教の聖地でもあるからだ。

今はイスラエルがエルサレム全域を実効支配しているが、パレスチナ自治政府は、イスラエルとの2国家共存が実現した暁には東エルサレムをパレスチナ国家の首都にするという構想を描いてきた。

イスラエルとアラブ諸国の対立から第一次中東戦争が起きた1948年、エルサレムは東西に分断されたが、1967年にイスラエルが統合したが、エルサレムの東西分割統治は中東和平実現のための大前提の1つ。

「パレスチナ自治政府とアラブ諸国の多くは、イスラエルとパレスチナが行う最終地位交渉でエルサレムの帰属問題を話し合うべきであり、将来のパレスチナ独立国家の首都を東エルサレムにすべきという立場を変えていない」と、国家安全保障に関する著名ブログ「ローフェア」の執筆者であるスコット・アンダーソンとイシャイ・シュワルツは書いた。

「国際社会の中でも様々な立場の違いはあるが、アメリカを含むほとんどの国は、誰がエルサレムに主権を有しているかについて自国の立場を明確に示さず、むしろ話し合いによる問題解決かエルサレムを国際管理下に置く手段を支持してきた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

りそなHD、25年3月期純利益目標を上方修正 従来

ビジネス

日経平均は5日続伸、米株高を好感 イベント控え手掛

ビジネス

仏GDP、第1四半期速報値は前期比0.1%増 小幅

ビジネス

村田製、今期は21%営業減益予想 相互関税の需要影
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中