トランプが断行したFRB議長交代の不安要素
トランプ(左)と記者会見に臨むパウエル。経済学博士号を持たないFRB議長は30年ぶりだ Carlos Barra-REUTERS
<次期議長のパウエルFRB理事は弁護士出身。イエレンの金融政策を引き継ぐというが......>
ジャネット・イエレン米FRB議長の4年の任期は成功だったと言っていい。冷静かつ慎重な米経済の舵取りを通じ、低失業率と堅調な経済成長を実現させた手腕は見事だった。
それでも、ホワイトハウスは人事の刷新に踏み切った。FRB議長は少なくとも2期務めるのが慣例だが、トランプ大統領は11月2日、来年2月で任期が切れるイエレンの後任にジェローム・パウエルFRB理事を指名すると発表した。
トランプは好調な株価と「うまくいっているものをいじるな」という原則に基づき、イエレンの再任も真剣に考えていたらしい。だがブルームバーグ通信によれば、最終的には「FRBに大統領の独自色を出す」べきだというムニューシン財務長官の助言に従った。
パウエルには3つの利点があった。共和党員なので議会共和党の受けがいいこと。イエレンの金融政策を基本的に引き継ぐ可能性が高く、一部の強硬派以外には歓迎されそうなこと。金融業界への厳しい規制にイエレンほど積極的ではなく、銀行の支持が期待できることだ。
だからといって、次期FRB議長として理想の人材というわけでもない。パウエルは法律の専門家だ。経済学博士号を持たないFRB議長は、1987年に退任したポール・ボルカーまでさかのぼる。
イエレンは「教育係」に?
だが、そのボルカーは80年代のインフレを抑え込んだことで高く評価されている。パウエルもエコノミストではないが、金融畑の経験は長い。投資銀行からジョージ・H・W・ブッシュ政権の財務次官に転じ、その後投資ファンド「カーライル・グループ」の共同経営者も務めた。
この経歴がパウエルの武器になるかもしれない。学者出身のベン・バーナンキ前FRB議長については、銀行業務の経験がなかったため、07年世界金融危機の兆候を見逃したのではないかと一部で指摘されている。
ただし、パウエルは12年にFRB理事に就任するまで、経済学の知識はお世辞にも豊富とは言えなかった。
「マクロ経済や金融政策はあまりよく知らなかった」と、金融大手UBSのアメリカ担当チーフエコノミストでFRB出身のセス・カーペンターはワシントン・ポスト紙に語った。
「(金融問題について)できる限り深く正確に学ぶため、スタッフや同僚と多くの時間を過ごすようにしていた」