安倍政権の働き方改革、残業抑制で4-5兆円の所得減 一時手当は効果に限界
11月29日、政府が重要政策として実行中の「働き方改革」によって、企業が雇用者に支払う残業代が年間4─5兆円減少すると政府が見積もっていることがわかった。複数の政府筋が明らかにした。写真は9月に都内で撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)
政府が重要政策として実行中の「働き方改革」によって、企業が雇用者に支払う残業代が年間4─5兆円減少すると政府が見積もっていることがわかった。複数の政府筋が明らかにした。このままでは、残業代を生活費に組み込んでいる子育て世代などの消費に大きな影響が出かねないため、政府は経済界に対し、一時的な手当ても含めたベースで3%の賃上げを要請し、減少する所得の還元を目指す。
ただ、労組側やマクロ経済の専門家らは、賃上げを手当て主体で実行すれば、雇用者が所得増が一時的にとどまる可能性を意識し、消費浮揚にはつながらないと指摘。賃上げは雇用者の消費性向拡大に効きやすい月例賃金の増加を軸に対応するべきだと主張している。
残業規制の副作用、数兆円規模
政府筋の1人は、ロイターの取材に対し「残業代カットの影響は、短期的におおむね5兆円程度とみている。企業は若い世代に対し、手当てでよいから還元してもらいたい」と述べた。
政府自身が推し進めている長時間労働の是正により、当初から懸念されていた残業代の削減という副作用の大きさについて、政府内で試算した規模を初めて示した。
5兆円は年間雇用者報酬の2%を占め、減少を放置すれば消費減退につながりかねない。
大和総研は今年夏、残業が年間720時間に規制されれば、雇用者全体で8.5兆円の減収との機械的試算を公表。今月に入り、短期的には年間4兆円程度の残業代減少になるとの試算も示した。
残業規制をオーバーしている社員に代わり、残業の少ない別の社員が業務を担当するケースが考えられ、マクロ的に所得減少幅が縮小するとの試算結果だ。
別の政府筋は「8.5兆円は過大だが、数兆円規模の所得が数年にわたり減少するとみている」との見通しを示す。すでに残業時間の削減は大手企業を中心に始まっており、安倍首相が産業界に呼びかけている3%の賃上げ目標は、残業規制による所得減に対応するためにも必要だと述べている。