最新記事

米移民政策

アメリカを捨てるインド移民

2017年10月23日(月)11時00分
スザンヌ・サタライン

ニューヨークで行われた在米インド人のパレード(8月) Eduardo Munoz-REUTERS

<懸命に米企業で働いても永住権の取れない在米インド人。トランプの就労ビザ制度厳格化で人材の流出が深刻化する>

やっとアメリカで暮らしていけるめどが立った。サミール・サヘイがそう思ったのは05年のことだ。インドから渡米して2年、MBAを取得し、オレゴン州の医療関連会社に就職が決まり、会社がグリーンカード(永住権)申請のスポンサーになってくれた。うれしかった。

以来12年、サヘイは50歳になったが、今も同じ会社で同じ仕事をしている。永住権も取得できていない。政府のお役所仕事のせいで、いまだに順番待ちを強いられている。こんな状況ではキャリアを積み重ねることもできない。職場を移ったら、また一から申請し直さねばならないからだ。

「自分の夢を犠牲にして家族を支えてきたのに」とサヘイは言う。「永住権があれば私は転職し、昇進し、もっと多くのことができたはずだ。でも取得できないから、現実は12年前と少しも変わっていない」

こうした複雑怪奇で矛盾に満ちた移民政策は何十年もの間、インドからの移民を苦しめてきた。それでもアメリカ移住の夢を追う人は絶えなかった。しかし今、多くのインド人がアメリカを見捨てようとしている。

6月にはインドのナレンドラ・モディ首相が訪米し、ドナルド・トランプ大統領と和やかに会談を行ったが、アメリカ在住インド人の恒久的な法的地位はトランプ政権の下でますます不確実になっている。

1月の大統領就任以来、トランプは「イスラム教徒の入国停止」や「就労ビザ取得要件の見直し」を大統領令で打ち出してきた。トランプのアメリカは自分たちを歓迎していないと、多くの外国人が感じている。

科学者やエンジニア約100万人を含む在米インド人240万人にとって、事態はあまりに深刻だ。その約45%は既にアメリカの市民権を取得しているが、まだ何十万もの人々が定期的に更新の必要な就労ビザに頼って働いている。

長期の展望が開けない

高度な専門技能を持つ外国人向けの就労ビザH-1Bの取得要件が厳格化されれば、特に南アジア出身者が多い州(カリフォルニアやニュージャージーなど)では大きな経済的・知的損失が懸念される。

コンサルティング会社デロイト・トウシュ・トーマツによれば、トランプの大統領当選以来、祖国に戻って職を探そうとする在米インド人が増えた。そうした人は昨年12月時点で600人だったが、今年3月には7000人に増えていた。またアメリカの大学の4割では、新学期からの留学生が急に減ったという(前年度には16万以上のインド人留学生がいた)。

インドの大学を出た人でも、アメリカよりカナダやヨーロッパへの移住を考える人が増えている。身の安全に関する懸念もその要因の1つだ。

今年2月にはカンザス州で、インド人技術者2人が白人の退役軍人に撃たれ、1人が死亡する事件が起きた。犯人は2人に向かって、不法移民ではないかと難癖をつけたという。この事件はインド国内の新聞で連日、大々的に報じられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

対中関係に目配り必要、医療用麻薬問題で既に進展と米

ビジネス

日銀、政策金利の現状維持を決定 田村委員は利上げ主

ワールド

トランプ氏、つなぎ予算案に反対表明 政府閉鎖リスク

ワールド

WTO紛争処理制度改革、トランプ政権始動前に合意で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 3
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施設、ウクライナ軍のドローン攻撃で深夜に爆発 映像が話題に
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 10
    アサドは国民から強奪したカネ2億5000万ドルをロシア…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中