「イスラム国」の首都ラッカ解放でISISが行く先
しかも、過激派にとって時は熟している。3年以上戦闘や空爆が続いたイラクでは、中西部ラマディや中部ファルージャ、北部モスルやティクリート、タルアファルなどの主要都市が壊滅した。かつてならイスラム過激派のイデオロギーを突っぱね、社会の正常な機能を維持する基礎だったはずの都市が、今はない。イラクのような国が過激化する条件は、ISISが台頭した2014年並みに揃っている。
■グローバル・ネットワーク
ISISがイラクとシリアに築いたカリフ制国家が縮小の一途をたどっても、国外のISIS戦闘員は生き延び、ISISは影響力を持ち続ける。
西アフリカから東南アジアにいたるまで、世界にはISISに忠誠を誓う武装組織の複雑なネットワークがある。
ISISの下部組織は、アフガニスタンでは反政府武装勢力タリバンを相手に、イエメンではイスラム教スンニ派の過激派組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」を相手に、勢力争いを繰り広げている。他にもフィリピンやサウジアラビア、エジプト、リビア、チュニジア、ナイジェリア、ロシアのコーカサス地方などに拠点を分散させて勢力を保っている。
ISISの弱体化に伴い、ISIS中枢からの支援や資金提供は減るだろう。それでも彼らはISISの名の下に、今後もテロ攻撃を仕掛け続ける。エジプトでロシアの旅客機を撃墜したり、イエメンのシーア派のモスク(礼拝所)で自爆テロを行ったりしたように、イラクやシリアの国外で殺戮を繰り返すことは可能だ。
■地政学的な火種
忘れてならないのが、ISISがいなくなることによる地政学的な影響だ。
イラク北部とシリア北部でISISを蹴散らしたクルド人主体の武装勢力は勢いづいて、ISISが逃げた後の土地をいくつか実効支配している。いずれイラク政府やシリア政府が取り戻しにくれば、争いは必至だ。
地政学的変化はすでにイラク北部で表面化している。イラク軍は10月16日、クルド自治政府が実効支配していた北部キルクークに進軍し、市内の広い範囲を掌握した。自治区も管轄権を持っていたイラク有数の油田地帯まで、イラク政府が支配下に置いた。クルド人がこの地からISISを撃退したとたん、土地はイラクのものだ、と言うわけだ。
ISISの放棄地は誰のものか
クルド人勢力はISIS掃討作戦を通じて、自分たちが優れた軍隊であることを証明した。だがその後、クルド人の独立機運が高まると、米主導の有志連合は独立に向けた動きを牽制し、同じく独立を目指すクルド人武装組織を抱えるトルコとイランも、自国への飛び火を警戒して反発した。
同様にシリア内戦も両手で数えきれないほどの多くの当事者を巻き込んでおり、ISISが放棄した土地をめぐる帰属争いは、ラッカ陥落後も長引きそうだ。もし交渉で決着がつかなければ、武力で決着をつけることになる。
(翻訳:河原里香)