ラッパー「ピッシー」、中国共産党の顔に 音楽で若年層取り込み
9月25日、野球帽にブカブカの黄色いTシャツ姿の李毅杰さん(写真)は、「ピッシー」の愛称で知られる中国では有名なラッパーだが、同国を支配するお堅い共産党の顔としては似つかわしくないルックスだ。北京で8月撮影(2017年 ロイター/Jason Lee)
野球帽にブカブカの黄色いTシャツ姿の李毅杰さん(23)は、「ピッシー」の愛称で知られる中国では有名なラッパーだが、同国を支配するお堅い共産党の顔としては似つかわしくないルックスだ。
李さんのラップグループ「天府事変」は、習近平国家主席が掲げる世界における中国の国家主義的ビジョンとも重なる「紅色力量(Force of Red)」や「這就是中国(This is China)」といった楽曲を発表し、ファンや共産党青年団からの支持を得ている。
来月開催される共産党大会で2期目の新たな5年間を迎える習主席のもとで、保守的な同党も、社会における自らの役割に新しい活力を与えようとしている。国が裕福になり、人の移動も増え、デジタル化が進むにつれ、従来の権力が試されている。
高学歴なミレニアル世代の多くが、厳しい雇用市場や大都市圏における住宅費の高騰に直面し、自身のキャリアや将来に希望を見いだせずにいるなかで、共産党も自身の現代化に取り組んでいる。
こうした努力の一環として、共産党はラップグループ「天府事変」のような自国のポップカルチャーも取り入れるようになった。だがその一方で、狭まりつつある許容範囲を逸脱したインターネット上のコンテンツやエンターテインメントに対する取り締まりを強化している。
もし党が「古いやり方に固執するなら、若者から拒絶されるだけだ」と李さんは言う。グループ名の「天府」は、出身地である四川省の州都・成都の辺りを指している。
「若者がもっと愛国心を抱けないのはなぜか、と声を上げる必要がある」と、李さんは北京で行われたインタビューで語った。
「われわれはこうしたシステムに入らなければならない」と李さん。「1990年以降に生まれた世代がシステムに入っていかなければ、国はどうなってしまうのか」
中国政府も同じ考えだ。
同政府は、ほかにも男性アイドルグループ「TFBOYS(ティー・エフ・ボーイズ)」のようなバンドを活用している。10代のメンバー3人はそれぞれ、中国版ツイッター「新浪微博(ウェイボー)」で3000万人近くフォロワーがおり、党のメッセージを拡散させるのに役立っている。同グループは党青年団のイベントにもよく出演している。
「このようなプロパガンダは、聴衆のニーズに合っているという点で一歩前進している」と、北京外国語大学で副教授を務めた経験のあるメディア研究者の乔木氏は指摘。
「一般市民は今では、(共産党機関紙の)人民日報や(国営の)中国中央テレビ(CCTV)による古めかしい、説教じみたやり方を拒絶している」と同氏は説明する。
1990年代以降生まれの世代に人気の「ビリビリ動画」のアカウントでは、共産党の青年団が今年に入り、愛国的なラップミュージックの合間に国防省ブリーフィングのような従来のコンテンツを挟み込んだ動画を数多く投稿している。
また、イメージやサウンド、キャッチーな音楽が繰り返されるテンポの良いある動画では、当局に対するスパイと疑われる人物に注意し、通報するよう市民に求めている。