絶対的に不平等な「税金逃れ」と「税金取り立て」の実態
Newsweek Japan
<日本の税制の現実を浮き彫りにした『ルポ 税金地獄』。富裕層や大企業には税金を逃れるための抜け道がいくつもあるのに、サラリーマンや非正規労働者の負担はどんどん大きくなっている>
『ルポ 税金地獄』(朝日新聞経済部著、文春新書)は、日本の税制の現実を浮き彫りにしたノンフィクション。
家族の状況などにもよるが、年収七百万円のサラリーマンだと実際の手取りは七割程度で、一千五百万円だと六割程度しか残らない。所得税、住民税、年金、医療、介護などと、項目は分かれているが、われわれはこんなに負担させられているのかと、あらためて驚くはずだ。
しかも、これは天引きされている税金や保険料だけの話だ。買い物をするたびに八%の消費税を取られ、中にはビールなどの酒、たばこ、自動車やガソリンなど、商品の値段に含まれていて二重に払う税金もある。持ち家があれば固定資産税も払う。こんなに負担をしているのに、国と地方の借金は一千兆円を超えた。(3ページ「プロローグ 老人地獄の次は税金地獄がやってくる」より)
問題は、高齢化社会が追い打ちをかけていることだ。それは現在についても言えることではあるが、2025年以降は団塊世代が75歳を超え、「後期高齢者」になる。高齢化社会を支えるためには財源が必要だから、そのとき日本人の税負担はさらに重くなっているわけだ。
そして、その背後にあるのは絶対的な不平等感である。現実問題として、富裕層や大企業には税金を逃れるための抜け道がいくつもある。ところが、本来は相応に保護されるべきサラリーマンや非正規労働者のための逃げ道は少なく、負担がどんどん大きくなっている。
例えば2016年に、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税金逃れや資産隠しを暴露した「パナマ文書」が話題になった。印象的なのが、このことについて語る50代の男性コンサルタントの言葉だ。彼はタックスヘイブンでの会社設立や資産運用に30年近く携わっているというが、そこには「不平等感」の実態がはっきりと表れている。
パナマ文書が公開された影響について、何度も自信ありげに繰り返した。
「富裕層の税逃れを止めることは決してできません」
彼に節税意識が芽生えたのは二十代、まだサラリーマンだったころだ。結婚してすぐ、妻を社長に自らの資産管理会社を登記した。法人をつくれば経費が多く認められるなど、節税に有利だ。この会社名義で国内外の不動産に投資し、十億円規模の資産を築いた。
相続対策もぬかりない。不動産取引に使う金は個人名義で銀行から借り、資産管理会社に貸し付ける。その貸し付け債権を毎年約百万円分ずつ、妻や二人の子に生前贈与する。年に百十万円までなら贈与税がかからない。こうしておけば、会社がお金を返す時に、その受け取り先は妻や子になる。
ただ、継続的に同じ額を贈与すると、まとめて贈与するものを分割しているだけだと税務署に判断されかねない。そこで贈与する日付を毎年、ランダムに変更する。今では子どもが結婚して、贈与先は子の妻や孫にまで増えている。自分が亡くなるころには、ほとんど課税されることなく財産を家族に移せるはずだという。(20~21ページより)