最新記事

米政治

トランプが共鳴する「極右思想」 ルネ・ゲノンの伝統主義とは?

2017年8月17日(木)11時06分
グレン・カール(元CIA諜報員)

トランプとロシアのラブロフ外相の会談を伝えるホワイトハウスのテレビ JONATHAN ERNST-REUTERS

<トランプが大統領選に勝利し、現在のような混乱を巻き起こしている背景には、あるフランスの哲学者の思想がある>

今にして思えば、ドナルド・トランプがホワイトハウスの主になり、しかも現在のような混乱を巻き起こすことを、私は30年以上前に知らされていたのかもしれない。

そのとき私はパリ郊外の冴えないバーで、ある欧州の極右政治家と会っていた。彼は西側の体制と民主主義の堕落について、強い社会をつくる民族の純血と価値の喪失について、熱弁を振るった。私は言った。「その偽りの議論は、6000万人の犠牲者を出した第二次大戦によって決着を見たのではないか」

当時の私は、彼の意見はいずれ勢いを失うグロテスクな古い極右思想だと考えた。だが、その熱い語り口には警戒心を抱いた。彼との対話が教えてくれた教訓は、恐怖や社会変動との闘いにおいて、分別は無力だということだった。

しかし、これはヨーロッパ人の議論にとどまらない。バーでの対話より60年前、地球の反対側で同様の現象が起こり、1931年の満州事変に始まる日本の軍国主義の跳梁(ちょうりょう)をもたらした。

驚いたことに昨年、80年代のパリで極右の男が言っていたことが現実となり、アメリカでトランプが大統領に当選した。

バーで会った男は、フランスの哲学者ルネ・ゲノンについて熱く語っていた。ゲノンの思想は「伝統主義」と呼ばれ、80年以上にわたり極右勢力の精神的支柱となっている。

ゲノンは、西洋文明が地殻的大変動に向かっていると見なす。伝統を重んじ、グローバリズムを拒み、文化相対主義に汚されず、宗教を重んじる単一の「真実」に基づく社会に回帰することを願っている。

彼はイタリア人の思想家ユリウス・エボラと共に、イタリアとドイツのファシズムの父といわれる。

世界観に直感的に共鳴

あらゆる国と時代の伝統主義者は、洗練されたコスモポリタン、つまり「外国」のエリートによる一般市民の搾取とモラルの堕落を非難する。ファシストが外国の影響を罵り、邪悪な「他者」である人々(ユダヤ人、フリーメーソン、無神論者、同性愛者、白人、黒人、ロマ)を殺害したのは偶然ではない。

トランプが大統領選出馬を表明した演説で、「移民」を犯罪者扱いしたことを思い出してほしい。アメリカ人は、自分たちはこのような憎悪や恐怖とは縁がないと思いがちだ。だから私は昨年の大統領選で、トランプの選対本部長を務めたスティーブ・バノンの思想的な師としてゲノンが話題になったことにうろたえた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、インド向けエネルギー・防衛装備の販売拡大を検討

ビジネス

ECB、近く物価目標達成も 不確実性高く政策予測困

ビジネス

IMF、日本の成長率見通し引き下げ トランプ関税の

ビジネス

IMF、新興国の成長率見通し引き下げ 資金調達問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 10
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中