崩壊ベネズエラに迫る内戦の危機
首都カラカスをはじめ、国内各地で相次ぐ反政府デモでは治安部隊との衝突で多数の死者や負傷者が(6月19日) Christian Veron-REUTERS
<制憲議会選挙の強行で今や内戦勃発の恐れも――。チャベスの後継者マドゥロが広げた混乱の原因と解決策は?>
国内外からの反対と非難を押し切って、ベネズエラで7月30日に新しい憲法を制定する制憲議会の選挙が行われた。現行憲法で定められた国民投票の実施なしに強行された選挙の結果、ニコラス・マドゥロ大統領率いる与党・統一社会党が全545議席を獲得。マドゥロの権力掌握が進み、野党議員が逮捕される事例が相次いでいる。
選挙の実施を受けて、米政府はマドゥロに経済制裁を科すことを発表した。一方でベネズエラ検察当局は選挙の不正疑惑を理由に、制憲議会の招集差し止め命令を裁判所に請求している。
13年に死去したウゴ・チャベス前大統領の後継者マドゥロの下で、世界最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラでは深刻な食糧・医薬品不足が進行。混乱と暴力が広がっている。
危機はなぜ起きたか。元祖ポピュリズム政治家と呼ばれるチャベスとマドゥロの違いは何か。アメリカは何をすべきか。産油国の問題に詳しいスタンフォード大学のテリー・リン・カール教授(政治学・ラテンアメリカ研究)に、スレート誌記者アイザック・チョティナーが聞いた。
――ベネズエラで起きていることをどう定義するか。
驚くべき点は、民主主義と独裁政治の両方を経験してきた豊かな近代国家が今や崩壊しつつあるということだ。ベネズエラは一触即発の状況で、最悪の場合は内戦勃発も覚悟すべきだ。
内戦になれば多くの難民が生まれ、政情不安が飛び火して中米やカリブ諸国で犯罪発生率がさらに上昇するかもしれない。ベネズエラ危機はほとんど注目されていないが、非常に重大な意味を持っている。
【参考記事】まるでソ連末期の経済破綻に向かうベネズエラ
――危機の主な要因は何か。チャベス時代に遠因があるのか、それともマドゥロの政策か。
根本的原因は(チャベス以前の)2大政党制と民主主義の破綻にあると思う。だが単純な答えを言うなら、原油価格の急落、原油収入への過剰依存、チャベスとマドゥロ両政権の浪費だ。加えて、行政に抑制と均衡の仕組みが存在しない。極めて強い権限を持つ大統領が非常事態宣言を連発して反体制派を抑え込み、汚職がはびこっている。
厄介なのは、こうした問題点が全て、民主主義時代のベネズエラにも存在していたことだ。
チャベスの台頭を招いた2大政党制の崩壊はなぜ起きたか。私に言わせれば、貧困層のために何もしなかったからだ。市民の不満がチャベス支持につながったが、そのチャベスも原油収入に過度に依存した。
ベネズエラでは輸出収入の96%を石油が占める。潤沢な原油収入で全てを賄えるという神話がこの国を支配している。民主主義時代もチャベス時代も、そして今も。