ビットコイン大国を目指すスイスの挑戦
スイスのツークでは町役場での支払いにもビットコインが使用可能 Arnd Wiegmann-REUTERS
<法整備と安全性の確保に手間取る他国に先駆け、金融立国スイスは仮想通貨ビジネスを全力で後押しする>
チューリヒ(スイス)から南に約20キロ、アルプスの絶景に抱かれた小さな町ツークで、小さな機械が大きな仕事をしている。ここに本社を構えるビットコイン・スイス社が設置した専用のATMだ(スイス全土では13台ある)。
ATMにスイスフランかユーロを入れると、相当額のビットコインを表すコードの印刷された紙が出てくる。これをスマートフォンで読み取れば、暗号通貨はあなたのものだ。
暗号技術を使った仮想通貨ビットコインに、そもそもATMは必要ない。ビットコインはサトシ・ナカモトを名乗る謎の人物が書いたコードであり、09年に「発行」されたが実体はない。ただ、暗号通貨を使ってみたいけれど何もないのは不安......という人にはATMが役に立つ。
ビットコインのATMという型破りな発想も、ツークならではのもの。人口3万人の町は暗号通貨ビジネスを引き寄せ、今や金融界でシリコンバレーならぬクリプト(暗号)バレーと呼ばれている。
5年前に金融サービスのマネタス社を立ち上げたのは南アフリカ出身のヨハン・ゲベルス。同社のシステムを使えば、ビットコインを含むあらゆる通貨を世界中に格安で送金できる。その後もツークでは暗号通貨関連の起業が相次ぎ、今ではビットコインのライバル通貨イーサを発行するイーサリアムなど、20社ほどを数える。
最初に起業家を引き付けたのは政治の安定と規制の緩さだが、ふたを開けてみれば、スイス人は彼らの斬新なアイデアに予想以上にオープンだった。
ビットコインを使えば銀行やカード会社を介さずに、匿名で決済できる。政府の介入を嫌いテクノロジーに明るい人々は、国家や銀行に縛られないビットコインを歓迎している。
「私たちが目指すのは金融制度の分散化だ」と、ゲベルスは言う。「世界で最も地方分権が進んだスイスは、私たちの取り組みを脅威ではなくチャンスと捉え、理解してくれる」
世界金融危機の余波でアメリカが国外の秘密口座を厳しく取り締まるなか、金融大国スイスは生き残り策を模索している。
09年にはアメリカの司法省と税務当局が、脱税を幇助しているとしてスイスの銀行大手UBSとクレディ・スイスに巨額の罰金を科し、口座を所有するアメリカ人脱税者の情報を提供するよう、スイスの銀行業界に迫った。租税回避地としてのスイスは、これで事実上終わりを告げた。
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規制の動きに戦々恐々
そんなスイスにとって、ビットコインは期待の新市場だ。昨年にはビットコイン取引システム技術への世界での投資額が14億ドルに到達。スイスは暗号通貨の中心地を目指し、事業を後押しする形で法整備を進めてきた。