最新記事

ロシア

トランプとの会談前、ロシアはジョージア領土を奪っていた

2017年7月13日(木)15時45分
ノア・バイヨン

G20の場でトランプと会談する直前に、親欧のジョージアから領土を奪ってきたプーチン Carlos Barria-REUTERS

<じわじわと境界線をずらす姑息なやり方で、ある日突然、農地の一部がロシア領になっていた農家も。旧ソ連時代の領土を取り戻そうとするロシアにトランプ政権は完全になめられている>

ドナルド・トランプ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領がG20サミット開催中に初会談を行う直前、ロシアはジョージア(旧グルジア)の「約10ヘクタール」の領土を元グルジア領で現在は独立を主張している南オセチア側に編入した。

南オセチアは独立国家の形態を取っているが、承認したのはロシアをはじめ世界の4カ国だけ。

【参考記事】南オセチア大統領選をねじ曲げた暴力
【参考記事】ロシアが狙う? もう1つの併合計画

今回の動きは国際社会がほとんど気づかないうちに実施された。ジョージアのゲオルギ・クビリカシビリ首相は「密かな占領」と糾弾。国際社会の無反応はロシアの思う壷だ。

ただし、事態を重く見た米高官が1人だけいる。米NATO駐在代表を務めたカート・ボルカーだ。BBCラジオの4チャンネルで7日、こうした動きが「続くと大変なことになる」と警告を発した。「ロシアは国際社会が強く抗議しないのをいいことに、悪い手を攻撃的に使って成果を挙げてきた」

ウクライナの先例

この放送の後、ボルカーはトランプ政権にウクライナ特使に任命された。主な任務はウクライナの領土だったクリミア半島を2014年に一方的に編入したロシアの責任を追及することだ。

ボルカーは2015年にフォーリン・ポリシーに寄稿した論説で、ロシアは「ジョージアにおけるアブハジア、南オセチアと同じやり方で」、ウクライナ東部を自国の勢力圏に組み込もうとしていると論じた。ロシアはアブハジアと南オセチアにテコ入れして、紛争を凍結状態に持ち込み、この2地域を事実上ジョージアから分離独立させた。それと同様にウクライナからドネツクとルガンスクを奪い取るつもりだと言い当てたのだ。

【参考記事】ジョージアで起きた「アブハジア紛争」で続く不条理

ボルカーの任命は、トランプ政権がロシアの拡張を封じ込め、NATOの同盟国とウクライナ、ジョージアを安心させることを目指し始めたサインとも取れる。マイク・ペンス米副大統領が7月末から8月初めにかけてエストニア、モンテネグロに加え、ジョージアを訪問することもその表れだろう。

ペンスはジョージア訪問中、米軍主導のNATO軍とジョージア軍の大規模な合同演習「ノーブル・パートナー」を視察する予定だ。合同演習は15年から毎年行われているが、ロシアは昨年「挑発的」だと非難した。

農地の一部がロシア領に

しかしトランプ政権が新たに打ち出したロシア封じ込めは実効性が薄い上、ジョージアにとっては時すでに遅しだ。ロシアがジョージアと南オセチアの「行政上の境界線」を700メートル程ずらしたため、「地元の数戸の農家は農地の一部が(事実上ロシア領となり)立ち入れなくなった」と、ジョージアの英字紙は報じている。

ロシア外務省はジョージアの訴えを「ばかげている」と一蹴した。チェコのプラハで開かれる両国の関係改善のための定例会議を前に、ジョージア政府が「嘘の主張」をして交渉の決裂を図ったというのだ。

境界線をじわじわと移動させるロシアの試みは、地理学者や地元の農民を悩ませるだけではない。思い出して欲しい。ロシアは2008年、ジョージアが南オセチアの分離独立派を攻撃したことを受けて、ジョージアに侵攻した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中