最新記事

中国

中国「三峡ダム」危機--最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する

2017年7月3日(月)06時52分
譚璐美(作家)

三峡ダムの放水(2010年) REUTERS

<四川省で起きた大規模な山崩れは、本当に大雨だけが原因なのか。世界最大の三峡ダムが一帯で大地震を頻発させているという指摘があり、さらには砂礫により、ダムそのものも機能不全に陥っている>

6月24日、中国・四川省で大規模な山崩れが発生した。中国メディアによれば、住宅62戸が土砂に埋まり、120人以上が生き埋めになったという。山崩れの現場は、四川大地震と同じ場所であり、ここ数日、大雨が降りつづいて地盤が緩んでいたことが原因だとされる。だが原因はそれほど単純なものではないだろう。

2008年5月に発生した四川大地震はマグニチュード7.9を記録し、甚大な被害をもたらした。震源地近くでは地表に7メートルの段差が現れ、破壊力は阪神・淡路大震災の約30倍であった。

専門家は、四川盆地の北西の端にかかる約300キロにわたる龍門山断層帯の一部がずれたために起きたと分析し、これによって地質変動が起こり、龍門山断層帯は新たな活動期に入ったと指摘している。今後、さらに大規模な地震が発生する可能性が高いのである。

四川盆地はもともと標高5000メートル級の山々がつらなるチベット高原から急勾配で下った場所に位置する標高500メートル程度の盆地で、ユーラシア・プレートと揚子江プレートの境界線の上にあり、大小さまざまな断層帯が複雑に入り組む地震の多発地帯である。

それに加えて、最近の中国の研究では、地震発生の原因のひとつは「三峡ダム」の巨大な水圧ではないかとの指摘がある。ダムの貯水池にためた水の重圧と、地面から地下に沁みこんだ水が断層に達することで、断層がずれやすくなったという分析である。

建設中から数々の難題、天気や地震にまで悪影響

三峡ダムは、中国政府が「百年の大計」として鳴り物入りで建設した世界最大のダムである。16年の歳月を費やして、四川省重慶市から湖北省宜昌市にいたる長江の中流域の中でも、とくに水流が激しい「三峡」と呼ばれる場所に建設された。竣工は2009年だ。

ダムは70万キロワットの発電機32台を擁し、総発電量2250万キロワットを誇り、当初の計画では、湖北、河南、湖南、上海、広東など主要な大都市に電力が供給され、全中国の年間消費エネルギーの1割を供給でき、慢性的な電力不足の解消に役立つはずだった。

だが、建設中から数々の難題が生じた。まず「汚職の温床」と化した。総工費2000億元のうち34億元が汚職や賄賂に消えた。国民の多大な犠牲も強いた。はじめに地域住民約110万人が立ち退きを迫られ、強制的に荒地へ移住させられて貧困化し、10万人が流民になった。

李白、杜甫、白楽天などの詩に歌われた1000カ所以上もの文化財と美しい景観が水没し、魚類の生態系が破壊され、希少動物の河イルカ(ヨウコウイルカ)が絶滅したことは、中国内外で議論の的になった。

【関連記事】
世界最大の中国「三峡ダム」に決壊の脅威? 集中豪雨で大規模水害、そして...
中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

12人死亡の仏風刺誌銃撃から10年、特別号表紙に「

ワールド

ブリンケン米国務長官が訪日、日鉄のUSスチール買収

ワールド

米首都大司教にトランプ氏に批判的な枢機卿、ローマ教

ワールド

中国外相がアフリカ訪問、35年連続 影響力を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 2
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻止を喜ぶ環境専門家たちの声
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    空腹も運転免許も恋愛も別々...結合双生児の姉妹が公…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    ウクライナ水上ドローンが「史上初」の攻撃成功...海…
  • 8
    ウクライナの「禁じ手」の行方は?
  • 9
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 10
    プーチンの後退は欧州の勝利にあらず
  • 1
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 2
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 3
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に突き落とした「超危険生物」との大接近にネット震撼
  • 4
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 5
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 6
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 7
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 8
    「これが育児のリアル」疲労困憊の新米ママが見せた…
  • 9
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻…
  • 10
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中