「お金のために働くな」とファンドマネージャーは言った
[新井和宏]鎌倉投信株式会社 取締役 資産運用部長
Photo: WORKSIGHT
<「日本人は極度のお金依存症になっている」と、鎌倉投信の新井和宏氏は語る。「まごころの投資」を掲げる同社の資産運用部長は、いい会社、いい経営者、そして幸せとお金の関係をどう考えているのか>
※インタビュー前編:「投資は科学」とは対極の投資哲学を掲げる資産運用会社
「お金のために働いてはいけない」――これは私が高校で講演する際によくいう言葉です。日本人は極度のお金依存症になっていると思います。「お金がないからできない」とか「お金のせいで自分はこんな仕事をしている」とか、現状を変えられないことの言い訳としてお金を引き合いに出すわけです。
お金はいいものでも悪いものでもありません。手段としては必要だけれども、人間は幸せになるために生きるのであって、お金を貯めるために生きるのではないはずです。
不安を解消するには互いをフォローしあうコミュニティを作ること
ちょっと考えてみてください。幸せになるためにお金はどのくらいのウエイトを占めますか? 先日イベントで聞いてみたら、多くの人の答えは50~100パーセントの間でした。
では次に、自分が幸せを感じるのはどんな時かを考えてみてください。多くの人はお金で買えるものではないことを挙げるのではないでしょうか。セミナーや講演などで聞くと、「遊びや趣味を楽しむ時間」「十分な睡眠」「家族との団欒」などと答える人が多いんです。幸せになるのに実はお金はそれほどいらないにもかかわらず、お金が必要だという思い込みに縛られているということです。
「そうはいっても、老後が心配だからお金を貯めなきゃ」という意見もあるでしょう。でも自分が何歳まで生きるか分かりませんよね。日本人の平均寿命が80歳だからということで、そこまで生きるにはこのくらいのお金が必要だと計算しても、自分が平均年齢で死ぬなんて誰も保証しない。ひょっとしたら100歳まで生きるかもしれません。つまりお金を貯めることでは不安はいつまで経っても解消されないということです。
不安を解消する一番いい方法は、お金がなくても面倒を見てもらう人ができること。つまりコミュニティとそれを維持する仕組みをつくるということです。コミュニティをつくるという意味でお金の不安を解消する仕組みの1つが「結い 2101」であると考えています。
コストを超えた価値を提供できるようになってきた
宣伝や広告は自社のホームページのみで、積極的におこなってはいません。それでも「まごころ」を重視するこの投信が軌道に乗ってきた、共感の輪が広がってきたということは、こういう枠組みを投資家が求めていたということだと思います。
『投信ブロガーが選ぶ! ファンドオブザイヤー』に選んでいただくなど、投資家のみなさんが評価してくださったことが最大の後押しになりました*。以前、投信ブロガーの間では日本の投資信託はアメリカに比べてコストが高すぎる、より安価なインデックス運用の方がいいといった具合に、コストをめぐる論議が活発に交わされていました。
ところが「結い 2101」に投票してくれた投信ブロガーの中には、「こんな投信があってもいいじゃないか」という意見を寄せてくださる方もいました。コストを超えた価値を私たちが提供できるようになってきたということだろうし、そこをちゃんと見てくれている人たちが広めてくれた。その力は大きいと思っています。