最新記事

インタビュー

長時間労働の是正がブレークスルーをもたらす

[リンダ・グラットン×石川善樹]ロンドン・ビジネススクール教授/予防医学研究者、株式会社 Campus for H 共同創業者

2017年6月9日(金)18時58分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<ロンドン・ビジネススクール教授で『LIFE SHIFT』著者のリンダ・グラットン氏と、予防医学研究者の石川善樹氏とのトークセッション。人がクリエイティビティを発揮できる働き方とは?>

2016年10月、WORKSIGHT LAB. エグゼクティブセミナー「THE 100-YEAR LIFE~100歳まで生きる時代のワークスタイル~」にて、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』を執筆したリンダ・グラットン氏の講演会が開催された。(主催:コクヨ株式会社)

グラットン氏の講演内容を前編(本編)で、その後に行われた予防医学研究者・石川善樹氏とのトークセッション内容を後編で紹介する。

※前編:リンダ・グラットンが説く「人生100年時代」の働き方

◇ ◇ ◇

石川: ビジネスパーソンの健康については、日本と海外で興味深い違いがあります。海外では地位が上がれば上がるほど健康になりますが、日本では地位が上がるほど不健康になるんです。出世しない方が健康にはいいと(笑)。これはバブル崩壊以降、特に1990年以降の現象で、中間管理職に激しいストレスがかかっているということです。会社としてそこを何とかしないとサステイナブルなキャリアを築くことは難しいと思います。

【参考記事】オフィスのウェルビーイングはすぐ始められる!
【参考記事】ウェルビーイングでワークスタイルの質を高める

グラットン: アメリカやイギリスで地位の高い人が健康なのは、裁量の自由度が高いことも影響しているでしょう。裁量権がない、選択肢が少ないという状況はストレスを招きます。

例えばイギリスの場合、より職位の高いマネジャーの方が健康なのは、働き方の自由度が高まるからです。なので、もしかすると日本では地位が上がるほど長時間労働をせざるを得なくなり、自由度が低下することが健康を害する1つの要因かもしれません。欧米でも金融業界などは残業が多いですが、それを自分でコントロールできるようになれば健康への影響も変わってくるのではないでしょうか。

年を取っても元気でいる人は3つ以上のコミュニティに所属

石川: もう1つ僕が日本のビジネスパーソン、特に男性のビジネスパーソンについて懸念しているのが、キャリアの移行が容易にできない人が多いことです。50歳でそれなりの地位に上り詰めた人が退職して次のキャリアに移ろうとしたとき、前の会社のプライドを引きずってうまく移行できない、ひいてはストレスで体を壊したり早死にしてしまう人が特に男性に多く見られます。

グラットン: それは察しがつきます。自分には権力があると思い込んでいる人が、実はその権力がポジションに付随するものと分かったときの落胆といったらないですよね。

私は今後重視される無形資産として自分自身の評判があると考えていますが、これには2つの要素があります。1つは会社の肩書以上の自分の評判を作っていくこと。簡単ではありませんが、取り組むべき価値のある非常に大切なことです。2つ目は無形資産を作って変身のきっかけをつかむことです。自分に対する知識を高め、さらに多様なネットワークを保つことで、肩書を通さないありのままの自分をポジティブにとらえられるようになるでしょう。それはキャリアの移行をスムーズにするはずです。

石川: 私たちの研究では、年を取っても元気でいる人は3つ以上のコミュニティに所属しているという特徴が見られました。1つとか2つのコミュニティだと足りないんですね。例えば会社のいつものメンバーと毎日同じ会話をしていると、頭を使わないので認知症になりやすくなるということです。でも3つ以上のコミュニティにいると、相手の考えや感情に思いを巡らせることになるので、それがいい刺激となって認知症になりにくいと考えられます。

グラットン: それは日本だけに限った話ではありません。アメリカの研究でも中年男性の85パーセントは、性別や職業などが似た者同士で交わる傾向があるとされています。石川さんがおっしゃった、自分と違う人と出会ったときには否が応でも自分と向き合う必要が出てくるということ、これは非常に鋭い指摘だと思います。自分と違う人と交わることは、自分が変わる良いチャンスでもあります。

続いて、会場からの質問にお答えしましょう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボ、米で「ウゴービ」値下げ CEO「経口薬に全力

ビジネス

米シェブロン、ルクオイルのロシア国外資産買収を検討

ビジネス

FRBウォラー理事、12月利下げを支持 「労働市場

ワールド

米下院、エプスタイン文書公開巡り18日にも採決 可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中