アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃
6月3日、フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市で先月から続いている戦闘の発端は、数十名のイスラム主義武装勢力が刑務所を襲撃し、警備員らを降伏させたことだった。写真は5月31日、黒煙が立ち上るマラウィ市のビル(2017年 ロイター/Romeo Ranoco)
フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市で先月から続いている戦闘の発端は、数十名のイスラム主義武装勢力が刑務所を襲撃し、警備員らを降伏させたことだった。
「キリスト教徒を引き渡せ、と彼らは言った」。現地の刑務局の副局長を務めるファリダ・P・アリ氏はその時の様子を語る。「刑務所職員にキリスト教徒は1人しかいなかったため、気づかれないように彼を服役者のなかに紛れ込ませた」
過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う「マウテグループ」と呼ばれる武装勢力の戦闘員は、警備員を脅しつけ、服役者を怒鳴りつけた。だが、キリスト教徒の職員を引き渡す者はいなかった。
「戦闘員が服役者たちを解放したため、その職員も逃れられた」とアリ氏は言う。
これは喜ぶべき瞬間だった。だがそれから数時間のうちに戦闘員たちは市域の大半を掌握し、警察署を攻撃して武器弾薬を奪い、道路を封鎖し、市内に接近する主要な経路に狙撃手を配置した。こうした襲撃によって、これまでに戦闘員を含めた約180人が死亡し、約20万人に上る住民の大半はマラウィ市を逃げ出した。
ミンダナオ島でマウテグループと同盟組織がマラウィ市を占拠したことは、中東で支配地域を失いつつあるISが、東南アジアにおいて拠点を築いており、ここ数年イラクやシリアで見られた残虐な戦術をこの地域に持ち込みつつあることを示す、最大の警告である。
今回の事件は、ISを支持するさまざまなグループ勢力を糾合してマラウィを占拠するという高度な作戦だったという証拠が集まりつつある、と東南アジア諸国で国防などを担当する政府当局者はロイターに語った。
地元マラウィの出身者だけでなく、サウジアラビア、パキスタン、チェチェン、モロッコといった遠方からの外国人戦闘員も今回の襲撃に加わっていたことで、治安当局者は特に懸念を深めている。
しばらく前から東南アジア諸国の政府は、ISが中東で支配地域を失いつつあるなかで、戦場で鍛えられた自国出身のIS参加者が帰国した場合に生じるであろう事態を憂慮していた。たが今や、東南アジアが外国人ジハーディスト(聖戦主義者)を引き寄せる磁場になりつつあるとの懸念が加わった。
「何も手を打たなければ、彼らはこの地域に拠点を築く」とフィリピンの隣国マレーシアのヒシャムディン・フセイン国防相は語る。
フィリピンの国防や軍の当局者によれば、フィリピン国内でISを支持する4組織は、いずれもマラウィに戦闘員を送り込んでいる。この都市に、東南アジアにおけるISの「ウィラヤート」(管区組織)を確立することが目的だ。