最新記事

農業

中国発バナナラッシュ 農業基地となったラオスが得たカネと代償

2017年5月15日(月)13時29分

5月12日、中国がもたらしたバナナブームは、ラオス北部の村の生活を変えた。雇用が増え賃金も上がった一方で、農園が殺虫剤と農薬漬けになったと専門家は指摘する。写真はボーケーオで4月24日撮影(2017年 ロイター/Jorge Silva)

2014年に中国人投資家がラオス北部の静かな村にやってきたときのことを振り返るたび、村長のKongkaew Vonusakさん(59)は笑顔を浮かべる。ぼろ儲けができた、と村長は語った。

彼らは村人に、1ヘクタールあたり最高720ドル(約8万1800円)で土地を借りたいと申し出たという。ほとんどが長年休耕地だった場所で、バナナを栽培したいとのことだった。

貧しいラオスにおいて、それは気前の良い話だった。「彼らは金額を告げ、これで満足かと尋ねた。私たちは、いいでしょうと言った」

川沿いで道路アクセスの良い土地は、少なくとも倍の賃料で借り上げられた。

その3年後、中国がもたらしたバナナブームは、ほとんどの村人の生活を変えた。だが、全員が笑顔でいる訳ではない。

中国人は、ラオス北部に雇用をもたらし賃金も上がった。だが一方で、農園を殺虫剤と農薬漬けにしてしまったと専門家は指摘する。

ラオス政府は昨年、バナナ農場の新設を禁止した。農薬の大量使用で労働者が健康を害し、水源が汚染されていると政府系研究機関が報告したことを受けた措置だ。

中国は、アジアと欧州を結ぶ新シルクロード経済圏構想「一帯一路」の恩恵を自賛しており、その推進を狙って14─15日に北京で同プロジェクトの国際首脳会議を開く。

バナナブームは、同構想が発表された2013年以前に始まったものだが、中国はすでに、ラオスでの農業開発をプロジェクトの一部とみなしている。

「一帯一路」構想で中国は、同国の投資家に市場を開放するよう周辺国に要請している。これは、Kongkaewさんのような村人にとっては、何かを得る代わりに別の物を失う「代償」を意味した。

「中国の投資で、私たちの生活は良くなった。食べ物も、生活の質も改善した」と、Kongkaewさんは言う。

だが、彼や彼の隣人も、農園では働かないことにしている。農薬の散布が行われているあいだは、決して農園に近づかない。近くの川は、農園から流出した農薬で汚染されている可能性があるため、釣りをするのもやめた。

中国は不満

中国人農園オーナーや管理者の一部は、ラオス政府による農園の新設禁止に不満を表明した。土地の賃貸契約が切れた後、バナナの栽培ができなくなるからだ。

彼らは、農薬使用は不可欠で、農園で働く人々がそのために健康を害しているということはないと主張した。

「農業をやるには、肥料や農薬が必要だ」と、バナナ農園を管理するWu Yaqiangさんは言う。彼の農園を所有するのは、ラオスでバナナ栽培を手掛ける最大手の中国企業だ。

「私たちが来て開発しなければ、この場所はただのはげ山のままだった」。農園労働者が丘の急坂を登り、一束30キロのバナナを粗末な選果場へと運んでいく様子を眺めながら、彼はそう語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 2人負

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が

ビジネス

独VW、リストラ策巡り3回目の労使交渉 合意なけれ

ビジネス

日産、米国従業員の6%が早期退職に応募 12月末付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中