最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

北朝鮮問題を解決するのはノルウェーなのか?

2017年5月11日(木)18時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

そもそもは学者など外部から政府に交渉が持ちかけられたりするなかで、交渉に乗り出すようになり、オスロ合意など実績を積んでからは各地から声がかかるようになったという。そしてその交渉術は「ノルウェーモデル」と呼ばれるようになっている。

その特徴は、長い目で密接に関係を作り、自らの利害を排除し、重要人物とNGOなどを結びつけることだと言われるが、実際には交渉に際しての柔軟性こそがノルウェーモデルだという声もある。またアメリカなどのような大国ではないので、紛争当事者たちも安心して交渉に望めると分析する専門家もいる。

ちなみにノルウェーはノーベル平和賞も担っている。基本的にノーベル賞受賞者はスウェーデンのノーベル委員会によって決められるが、平和賞だけはノルウェー・ノーベル委員会が決める。その選考委員会のメンバーは、ノルウェーの議会によって任命されている。そんな平和の使者のような印象の一方で、NATO(北大西洋条約機構)のメンバー国として、内戦状態のリビアなどに軍を派兵し、多くの爆撃を実施している。

【参考記事】文在寅とトランプは北朝鮮核で協力できるのか

ではそんなノルウェーが北朝鮮の核問題で仲介役となれる可能性はあるのか。実際2006年に、ノルウェー紙で北朝鮮政府が核開発問題で国際社会との仲介を求めたと報じられたことがあった。また現在、北朝鮮のサッカー代表チームの監督は、ドイツなどで活躍した元ノルウェー代表のヨルン・アンデルセンが務めている。

ノルウェーと北朝鮮がなんらかの形で接触を取れるようなことになれば、アメリカとの緊張緩和に向けた交渉の糸口になれるかもしれない。サッカーの代表監督から繋がる可能性もなくはない。

そしてノルウェーが絡んで休戦中の北朝鮮とアメリカが和平合意すれば、金正恩・朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ大統領が仲良くノーベル平和賞を受け取るという「歴史的」な光景が見られる、なんて冗談みたいな話が起きる可能性も否定はできない。

ただ現実にはその可能性は限りなく低いだろう。アメリカや日本だけでなく、中国やロシアなど利害と思惑がからみあう大国がにらみを利かす中での仲介は相当に困難なものだ。北朝鮮が仲介をノルウェーに持ちかけたとされるのは、故金正日総書記の時代のことで、いくらスイス留学経験がある金正恩でもノルウェーに仲介を要請するようなことは考えにくい。

残念ながら、ローマ法王のアイデアは現実的ではないと言わざるを得ない。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中