中東の盟主サウジアラビアが始めたアジア重視策
3月に会談したサルマン国王と中国の習国家主席 REUTERS
<高齢のサルマン国王が投資と友好を求めてアジア歴訪――アメリカの動きもにらみつつ野心的な経済改革が本格始動した>
過去を引きずる紛争だらけの中東地域から足を洗い、希望と未来のアジアに通商と外交の焦点を定める。それが米オバマ前政権の掲げた「リバランス」政策だった。その成否については議論の分かれるところだが、どうやら今度は中東の盟主サウジアラビアが、同じアジア重視に舵を切ったらしい。
2月下旬から、同国のサルマン国王は3週間かけてマレーシア、インドネシア、ブルネイ、日本、そして中国を歴訪。一方で腹心のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子はアメリカへ飛び、ドナルド・トランプ米大統領と初めて会談した。いずれも石油依存からの脱却を図る経済改革計画「ビジョン2030」の実現に向けて投資を募り、関係を強化することが目的だった。
今後、サウジが成長余力のあるアジア諸国との経済・政治的関係を深めていくのは間違いない。しかしイランの脅威に対応しつつ将来的な投資を呼び込むために、アメリカとの密接な関係が必要なのも確かだ。
高齢の国王が1000人以上の随員を従えて長い旅に出て、各国首脳とじっくり話し合ったのだから、アジアの市場と資金、そして技術に寄せるサウジの思いは本物とみていい。
最も重視するのは中国と日本だ。サウジの原油輸出先として両国はトップ5に入る。そして世界最大のエネルギー消費国である中国と天然資源の乏しい日本は、サウジの安定した原油生産に多くを依存している。つまり両国とも、ビジョン2030の実現でサウジの未来が安定することを望んでいる。
サルマン国王と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、エネルギーや宇宙分野で650億ドル規模の経済協力の覚書に署名。国営石油会社サウジ・アラムコとサウジアラビア基礎産業公社が、シノペック(中国石油化工集団)と共に両国で石油化学の合弁事業を立ち上げることでも合意した。
一方、日本の安倍晋三首相との会談では31件のプロジェクトの可能性や、サウジアラビアにトヨタなどの日本企業を誘致するための経済特区を新設することなどについて協議した。
両国間では現状でも80以上の合弁事業が進行しているが、今回の会談ではさらに、エネルギーや医療など重点的な9分野で協力を深める「日本・サウジ・ビジョン2030」なる構想も打ち出している。
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障害はアメリカの政策
国王はアジアのイスラム圏諸国とも関係強化を図った。核開発をめぐるイランへの経済制裁が解除されて以来、サウジとイランの勢力争いは経済分野にも及んでいる。OPECが減産を強いられるなか、サルマンはインドネシアやマレーシアで130億ドル規模の合弁事業を立ち上げ、石油化学などの分野でこの地域におけるサウジの影響力を確保しようと試みた。