レノボもアリババも「毛沢東の戦略」で成功した
昨年11月、広東省のイベントで登壇したアリババのジャック・マー(左は女優のスカーレット・ヨハンソン) China Daily/via REUTERS
<「農村が都市を包囲する」――これぞ中国市場で覇権を握る秘訣だ。中国企業が日本に乗り込む事例も増えてきた今こそ、中国企業の戦略や経営者の人となり、中国経済について知っておいてほしい>
「農村が都市を包囲する」
毛沢東の戦略としてよく知られている言葉だが、実は中国ではビジネス戦略としてもたびたび使われている。
今や世界一のPCメーカーとなったレノボだが、1990年代には瀕死の状態に陥っていた。中国の市場開放に伴い、米国のヒューレット・パッカードや台湾のエイサーといった世界的企業が進出してきたため、レノボを始めとする中国国産メーカーは総崩れとなったのだ。
その時、起死回生の戦略として打ち出されたのが、民族工業(国産ブランド)衰亡の危機を救う英雄としての企業イメージ構築、そして「農村が都市を包囲する戦略」だった。
それまでの中国PCメーカーは卸に出荷すれば後は関知しないという投げっぱなし状態だったが、ヒューレット・パッカード方式の特約店モデルを採用。しかも、外資が入り込めないような田舎にまで店舗網を築き上げ、中国ナンバーワンの地位を確立した。
中国の飲料品大手ワハハも「農村が都市を包囲する戦略」の成功者だ。やはり1990年代のエピソードだが、大都市では外資系大手スーパーが販売の主導権を握っていた。ブランド力も資金力もない企業が割り込む隙間はない。ならばと郊外や田舎を中心に「聯銷体」(販売チェーン)と呼ばれる特約販売店網を構築し生き残りを図ったのだ。
21世紀になっても「農村が都市を包囲する戦略」は有効性を保っている。以前の記事「『テック界の無印良品』シャオミは何がすごいのか」 にも書いたが、中国国産スマートフォンメーカーの雄、シャオミは2016年に入り急失速した。その背景にあるのがOPPO、VIVOといった国産ライバルメーカーの台頭だ。
ネット直販を中心に販売してきたシャオミと異なり、これらのメーカーは郊外や農村の実店舗を基盤として販売やアフターサービスを充実させてきた。シャオミも最近、慌てて専売店を2000店舗にまで拡大する方針を発表したが、巻き返せるかは微妙な情勢である。
日本でもっともよく知られている中国企業であるアリババの「農村が都市を包囲する戦略」はやや異色だ。2003年から2006年にかけて、中国EC業界の覇権を賭けて米国の巨人eBayと熾烈な競争を繰り広げた。
eBayは大手ポータルサイトと、アリババなど他のEC企業の広告を配信してはならないという独占契約を結んだ。アリババはネット掲示板や中小サイトへの出稿というデジタル版「農村が都市を包囲する戦略」で対抗。毛沢東さながらのゲリラ戦で当初の劣勢を覆し、中国市場の覇権を手に入れた。
こうした中国企業の経営戦略やエピソード、そして創業経営者の生い立ちや人となりをまとめ、筆者はこのたび『現代中国経営者列伝』(星海社新書)を執筆した。列伝、すなわち経営者たちの伝記集というスタイルで、8人の企業家を取り上げた。その顔ぶれは以下の通り。
レノボ(PC)の柳傳志
ハイアール(家電)の張瑞敏
ワハハ(飲料)の宗慶後
ファーウェイ(通信機器)の任正非
ワンダ(不動産、小売、映画、スポーツ)の王健林
アリババ(EC)のジャック・マー
ヨーク(動画配信)の古永鏘
シャオミ(スマートフォン)の雷軍
加えて数人の新世代の企業家たちを紹介した。