「世界一幸福」なデンマークはイギリス人にとっても不思議の国
デンマークのビルンにあるレゴ社のオフィスビル ricochet64-iStock.
<ロンドンで『マリ・クレール』編集者として華々しい生活を送っていた女性が、夫とデンマークに移住して奮闘、「ヒュッゲ」な生活を模索するなかで得たもの>
「世界一幸福な国」リストでつねに上位にランクインしているデンマーク。その幸せ感を表現した「ヒュッゲ(Hygge)」という言葉が、イギリスやヨーロッパでブームとなっている。気温マイナス20度にもなる長く暗い冬を、家の中で快適に過ごすための生活の知恵を指して使う言葉だ。
ヒュッゲをキーワードにした本は何冊か出版されているが、イギリス人女性ヘレン・ラッセルによる『幸せってなんだっけ?――世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年』(鳴海深雪訳、CCCメディアハウス)は、外国人からみたデンマークのヒュッゲ観を自らの体験をもとに綴ったもの。
ロンドンで雑誌『マリ・クレール』の編集者として華々しい生活を送っていた著者は、理想のライフスタイルを紹介する記事を書きながら、自分はいつもストレスを抱えており、毎晩アルコールなしでは眠れず、メールの受信ボックスから片時も逃れることができずにいた。子宝にもなかなか恵まれず、30代半ばという年齢がプレッシャーに拍車をかける。
そんなヘレンにある日、夫が思いがけない提案を持ちかけた。それは夫の憧れの会社、レゴ社への転職の話だ。
レゴ社といえば、お馴染みのブロック玩具を製造・販売するデンマークを代表する企業であり、最近日本でも名古屋にレゴランドがオープンしたのは記憶に新しい。ヘレンの夫(本書の中で彼は終始"レゴマン"と呼ばれる)はその純粋なレゴ愛を訴えるとともに、デンマークがいかに素晴らしい国であるかを伝え、妻の説得に成功する。
極東に住む私たち日本人からすれば、イギリス人がデンマークに移住するのはさほど困難ではないのでは?と思ってしまうが、それはとんでもない勘違いだ。
人口570万人のデンマークのなかでもユトランド半島の片田舎(レゴ社の本社があるビルンという町)に外国人が暮らすというのは、ヘレンのような都会育ちでポジティブ思考の持ち主にとっても簡単ではなさそうだ。それが冬であればなおさらである。
あまりの寒さで外に出ることがままならない北欧では、家のなかで快適に過ごすことが何より優先される。部屋にキャンドルをいくつも並べて家族や友人たちと食卓を囲んだり、お気に入りのデザイナーズ家具を揃えて室内を心地よく整えることは、インテリア雑誌のなかの夢の世界ではなく、多くのデンマーク人が実践していることだ。
それは単に、おしゃれに生活するというレベルを超えている。年間のキャンドルの消費量は、なんと1人あたり6キロ。冬場の圧倒的な日照不足に対抗するため、キャンドルはビタミンDやエクササイズ、日焼けサロンと並んで、冬の鬱から逃れるための必需品なのだ。