スイスの高級腕時計ブランドにグレーマーケットは必要悪か
無料の宣伝効果
スウォッチ・グループ(UHR.S)やリシュモン(CFR.S)など高級腕時計の最大手は、グレーマーケットに対する戦略を語ることを拒否したが、一部のメーカーはグレーマーケットにも利点はあると見ている。
「時計が1つ売れるたびに、利益の大半を手中に収めるのはメーカーだ」と指摘するのは米ショッピングサイト「SwissLuxury.com」の創業者ダリル・ランドール氏だ。
「それに、ネット検索や画像検索、ソーシャルメディアでのブランドの投稿、ツイート、掲示は、すべて非常に効果的で無料広告だ」。そう語るランドール氏のサイトは、好調な年には年間約1000万ドルの売上を生んでいるという。
メーカーの要請があれば製品販売を中止することもあるとグレーマーケットで販売する別の業者は語る。ブランド側から米販売業者向けに、割引価格で15─25個の製品が定期的に提供されているという。
「ブランド側からは嫌われているだろうが、多かれ少なかれ、私たちの目標は共通している。製品を売り、利益を上げたいのは一緒だ」とこの業者は付け加えた。
2008─09年の金融危機後、中国からの高級腕時計に対する需要が膨らんだ。これにより製品の生産量が、小売価格とともに上昇したものの、この2年間で需要は急減。度重なる過激派の攻撃によって、こうした腕時計販売の盛んな欧州を訪れる観光客が減少したことに加え、中国当局が高級腕時計を贈答品にする公務員を取り締まったためだ。
需要減退であっても、生産を抑えることは困難だ。理由の一端として、腕時計は、段階を追って組み上げられるため、製造に時間がかかり、製造計画が2年も前に確定している場合が多いことが挙げられる。
高級品をぜひとも必要としている人はいなくても、各ブランドは、顧客が贅沢な店舗で精巧に仕上げられた腕時計を目にし、実際に触れてみることでその「物語」に惹きつけられたなら、それを手に入れたくなり、価格など二の次になってしまうことを経験上知っている。
流通するブランドにばらつき
販売好調期には、メーカー側は売上げの20%を利益として確保し、販売店は最大45%という魅力的なマージンを得ることができた。
だが、ビジネスが細ってきても、メーカーは公式販売店が大幅な値下げを行うことを許さなかった。ブランドイメージが傷つくことを恐れたためだ。こうした方針が、資金繰りに困った販売店の背中を押して、グレーマーケットに商品を流すようになった可能性があるという。
スイスの腕時計輸出は昨年10%低下。さらに今年に入って最初の2カ月で8%減少している。