トルコを脅かすエルドアンの「ありふれた」独裁
権限強化を目指すエルドアンは、憲法改正を実現するため国内情勢を意図的に混乱させてきた Murat Centinmuhurdar/Presidential Palace/REUTERS
<憲法改正でエルドアンは絶対権力者になるのか? 欧米の沈黙が民主主義崩壊の危機を招いた>
トルコで今月16日、国家の運命を決める国民投票が実施される。そこで問われるのは、大統領の権限を強化する憲法改正案の是非だ。
だが、クルド系の野党・国民民主主義党(HDP)のセラハッティン・デミルタシュ共同党首は意見を表明することができない。テロ組織との関係を理由に拘束されているからだ。
政治的主張を封じられたデミルタシュは最近、短編小説を執筆している。最新作の題名は『みじん切りのアレッポ』。シリア内戦の激戦地となった都市が舞台の同作で、ある人物はこう自問する。「現実の死とは平凡なもの、ありふれたものなのか。それを誇張し、特別なものに変えたのは私たちなのか」
間近に迫るトルコの国民投票をめぐる政治の構図を理解するには、2つのことを理解しなければならない。トルコで15年に2度行われた総選挙の顚末と、暴力が「ありふれたもの」に化したこの2年間の在り方だ。
トルコが政情不安に陥ったきっかけは、HDPが歴史的躍進を遂げた15年6月の総選挙だった。同党は議席確保の条件である得票率10%以上を初めて記録。その一方、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領の支持基盤である与党・公正発展党(AKP)は、第1党の座を維持したものの議席は過半数を割り、02年の政権獲得以降で初の敗北を経験した。
【参考記事】迫るトルコの国民投票:憲法改正をめぐる政治力学
野党の影響力拡大を阻止すべく、エルドアン一派は暴力を手段に混乱状態をつくり出し、権力強化に乗り出した。そのエルドアンを欧米は非難するどころか、パートナーと見なしてきた。
エルドアンが大統領に就任したのは14年8月。役職は3期までとするAKPの規定に従い、03年から連続3期務めた首相職を退任した直後のことだ。
従来、儀礼的立場であるトルコ大統領は限定的な権限しか持たなかった。だがエルドアンは大統領に行政権限を集中。自身の任期を最長で2029年まで延長させるため、15年6月の総選挙の前から憲法改正に向けて動き始めていた。
総選挙では、エルドアンのもくろみに反対する多くの有権者がHDPに票を投じた。HDPが議席を獲得すればAKPは議会で過半数を失い、連立政権の発足を強いられると期待してのことだ。選挙結果は期待どおりだったが、彼らの望みはじきについえることになる。
確かに連立交渉は始まった。しかしトルコの選挙法の規定に従えば、その年の8月までに新政権が成立しない場合、11月に再度総選挙を行わなければならない。AKPはそれを狙った。