最新記事

米中関係

米中首脳会談の結果を、中国はどう受け止めたか?

2017年4月10日(月)06時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

しかし中国の外交部報道官は、「このたびの北朝鮮のミサイル発射と米中首脳会談は関係がない」と言ってのけた。当然、中国としては、トランプ大統領から「もし中国が協力しなければ、アメリカ単独で行動してもいい」と言われ、北朝鮮からも泥を塗られたとなれば、訪米する習近平国家主席の威信に傷がつくから、関係性を否定したいだろう。

―――

それだけでも十分な痛手を負っているのに、今度はアメリカ時間の6日夕方、習近平国家主席夫妻がトランプ大統領夫妻の招きを受けて華麗なる晩餐会をフロリダの高級別荘で披露しているというのに、そのさなかにアメリカがシリアに向けてミサイルを59発も発射していたのだから、習近平国家主席の驚きは尋常ではなかったにちがいない。夕食後にシリア攻撃情報を知った習近平一行は、そそくさと宿泊先に引き上げたと言われている。

アメリカの電撃的なシリア攻撃は、トランプ大統領の「何なら北朝鮮に対してアメリカ単独で行動してもいいんだよ」という言葉が、脅しではなく「本当に実行されるかもしれない」という現実味を帯び、習近平国家主席には相当のプレッシャーになったにちがいない。

もっとも、トランプ大統領はオバマ前大統領とは違うんだということをアメリカ国民に知らせたいという意図から、唐突とも言えるほどの(迅速な?)決断をしたのだろうが、それにしてもタイミングがあまりに合いすぎた。今度はトランプ大統領によって習近平国家主席は顔に泥を塗られた形だ。

―――

習近平はその場でトランプ大統領に対して「化学兵器の使用には反対する。トランプ大統領の決断に賛同する」かのようなリップサービスまでしているが、心は裏腹だっただろう。宿泊先では、その逆のことが討議されたにちがいない。

その証拠に、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVは、習近平国家主席の偉業を讃えると同時に、米中首脳会談とは全く関係ない形でアメリカのシリア攻撃を伝え、特にロシアやシリア側の抗議声明に重きを置いて繰り返し報道し始めた。シリアのアサド大統領が「シリア政府は絶対に化学兵器を使っていない」と抗議している声明を何度も報道したし、中でも「果たして、シリアのアサド政権側が化学兵器を使ったのだろうか」「その十分な検証もなしに、アメリカがシリアを攻撃したのは拙速だ」「これはシリアに対する侵略行為だ」「アメリカのこのミサイルで一般市民や子供が大勢死亡している」「この攻撃はISテロ組織を勇気づけ喜ばせただけだ」というシリアやロシアの抗議声明や評論家の意見に重きを置いて報道した。

―――

それでも翌日、トランプ大統領と二度目の会談に入った習近平国家主席は、笑顔を絶やすことがなかった。

なぜか――?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中