最新記事

米軍事

イエメン戦死者と妻を責任逃れに利用したトランプ演説

2017年3月2日(木)20時40分
ミカ・ゼンコー

戦死した夫ライアンを英雄と称える拍手に涙を流す妻のキャリン・オーウェンズ(中央) Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプ初の軍事作戦で戦死した米軍兵士を妻の前で英雄と称え、満場の拍手を誘う演出。これで作戦失敗の責任追及は逃れられる?>

「この国のために楽観的なビジョンを提示する」――2月28日夜、ドナルド・トランプ米大統領が就任後初めて上下両院合同会議で行った演説の内容について、ホワイトハウスは事前にそう発表していた。

だがフタを開けてみれば、トランプの演説はこれまでと同じく空疎なレトリックに終始した。「魂を揺さぶる希望」を示せと国民を鼓舞するさまは、自己啓発セミナーの講師のよう。ただしプロの講師と違って、トランプは国民をやる気させる具体的な助言は示せなかった。

そんな演説にも1カ所だけ注目すべきところがあった。トランプのリーダーとしての資質を図らずも露呈したくだりだ。演説中トランプは、イエメンでの対テロ作戦で戦死したSEALs(米海軍特殊部隊)の隊員、ライアンことウィリアム・ライアン・オーエンズの妻を紹介した。トランプが大統領就任後初めて承認した軍事作戦の失敗を帳消しにするための計算尽くの演出だ。現に同じ日の朝、には、トランプは完全な責任逃れのコメントをしていた。

【参考記事】米軍の死者を出したトランプ初の軍事作戦は成果なし

作戦失敗は指揮官のせい

イエメンで1月28日に実施された急襲作戦では、オーエンズ以外にもアルカイダ系テロ組織の戦闘員とみられる数人と、複数の民間人が死亡した。それだけの犠牲を出しながら、作戦の目的だった重要な情報はまったく手に入らなかったと、米国防総省筋は明かしている。

だがトランプは2月28日朝、FOXニュースの番組に出演し、部下たちに責任転嫁する発言をした。米軍の最高指揮官の立場で次のように語ったのだ。「これは私の就任前から計画されていた作戦だ。(将軍たちが)やりたがっていた。私に会いにきてやりたいことを説明した。非常に尊敬されている将軍たちだ。私の将軍たちはこの何十年かで最も尊敬されている。だから信用した。だが、彼らはライアンを失った」

トランプは自分が承認した軍事作戦の失敗を、オバマ前政権と軍の指揮官のせいにした。最高指揮官が部下に責任転嫁をするのは現代の軍事史では稀に見る失態だ。この2日間、軍の高官数人に話を聞いたが、いずれもトランプのコメントに深い失望を隠せず、苦りきっていた。残念ながら、こうした作戦を監視する各種委員会を率いる共和党の有力議員たちは、同じ共和党の大統領を守るため、トランプの発言を容認するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中