最新記事

中国経済

米国債最大保有国が中国から日本に、元安防衛で外貨崩し

2016年12月17日(土)20時37分

12月15日、中国が世界最大の米国債保有国の座を日本に明け渡した。北京で1月撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)

中国が世界最大の米国債保有国の座を日本に明け渡した。下落が続く人民元を支えるために外貨準備を取り崩しているからで、円安が進むのを好ましく思っている日本と正反対の事情が背景にある。

投資家は中国の米国債保有動向から目が離せない。もしも大規模な売りがあれば、ただでさえ上がっている米金利に一段の上昇圧力が加わり、それがドル高/人民元安の加速をもたらしかねないからだ。

米財務省が15日発表したデータでは、10月の中国の米国債保有額が1兆1150億ドルと6年余りぶりの低水準になったことが判明。減少は5カ月連続で、10月までの1年間の減少規模は1392億ドルと12カ月ベースで過去3番目の大きさを記録した。

ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利を受けて中国がどう動いたかが分かる11月と12月のデータは、来年初めに公表される。

10月の日本の米国債保有額は1兆1320億ドル。落ち込み幅は中国よりずっと小さかった。2008─09年の金融危機以降で日本の米国債保有が中国を上回ったのは、これまで昨年2月のたった1カ月だけだった。

シンガポールのフォーキャストPteのエコノミスト、チェスター・リャウ氏は「中国は人民元相場維持のためにドル(資産)を売っているが、日本は円安を喜んで放置している」と指摘した。

人民元の対ドル相場は15日、米連邦準備理事会(FRB)の政策金利引き上げと来年の想定利上げ回数の上方修正を受け、8年ぶり余りの安値に沈んだ。

こうした中でエコノミストによると、中国は保有米国債の削減を続ける見通しだ。コメルツ銀行のシンガポール駐在エコノミスト、ゾウ・ハオ氏は「中国は人民元を守るために意識的に米国債保有を圧縮しており、この流れを止めるのは難しい」と述べた。

11月の中国の外貨準備は2014年6月のピーク時から9420億ドル減って、6年ぶりの低水準の3兆0520億ドルとなった。この間、保有米国債を1110億ドル削減した。

人民銀行(中央銀行)は人民元支援に向けてさらに外貨準備を取り崩す公算は大きいが、同時に国外への資金流出対策として外貨準備をある程度維持しなければならないという困難なかじ取りを迫られている。

一部の市場参加者の見方では、人民銀行にとって外貨準備の3兆ドルが心理的に重要な節目になる。もっともこのままドル高/人民元安が続くようなら、外貨準備が急減するリスクがある。

トランプ氏が中国の貿易政策や通貨政策を批判し、台湾と接触していることなどから、中国が報復的に米国債売りに出るのではないかとの懸念もある。

しかし中国政府の政策アドバイザーは、たとえ中国が米国に仕返しをしたいと考えているとしても、米国債売りは選択肢にならないと考えている。中国が大量に米国債を売れば、米国が資金繰りに奔走せざるを得ないのは確かだが、価格急落によって中国も自ら保有する資産の価値を傷つけてしまう恐れがあるからだ。

中国にとって、デフォルトリスクが実質ゼロで利回りがプラス圏にある米国債の代わりになる投資先はほとんど見当たらない。ある中国政府の政策アドバイザーは「これ(米国債の投げ売り)は筋の悪いアイデアだ。政府が検討すべき米国への対抗措置には入らないだろう」と話した。

(Kevin Yao記者)


[北京 15日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米議会は債務上限を撤廃するか29年まで延長を、トラ

ワールド

豪、ソロモン警察強化に1億ドル支援 中国に対抗

ワールド

トランプ氏、EUに石油・ガス購入要求 米赤字埋め合

ビジネス

午後3時のドルは157円近辺へ下落、けん制発言で円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 2
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 3
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定…
  • 8
    米電子偵察機「コブラボール」が日本海上空を連日飛…
  • 9
    クッキーモンスター、アウディで高速道路を疾走...ス…
  • 10
    藻類の力で「貴金属リサイクル率」向上...日本発スタ…
  • 1
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 9
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中