最新記事

中国

内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結成した理由

2016年12月3日(土)10時00分
楊海英(本誌コラムニスト)

Guang Niu/GETTY IMAGES

<中国が四方八方に繰り出す自治の空手形。日本が迫られる「日中友好」と「旧宗主国の責任」の分岐点>(写真:少数民族を弾圧する中国当局〔09年、新疆ウイグル自治区〕)

 11月10日、中国に民主化を求める各国の団体が東京・永田町の参議院議員会館の一室に集まった。世界各国に広がる南モンゴル(中国内モンゴル自治区)の複数の運動団体が「クリルタイ」と呼ばれる連帯組織を結成するためだ。

 150人近いモンゴル人を応援しに来たのは、同胞であるモンゴル国の支援者だけではない。香港の民主化運動「雨傘運動」の学生指導者、台湾の与党・民進党系の政治家や学者、それにチベット亡命政府とウイグル人亡命組織の代表も駆け付けた。

 さらには天安門事件以降にアメリカを拠点に民主化運動を推進してきた、大陸系の「中国民主運動海外連合会議」の代表や日本の国会議員たちも参加した。

 クリルタイはドイツに亡命中のショブチョード・テムチルトを議長に選出。父祖伝来の草原が中国の開墾で砂漠化し、生活が困難に陥っていると訴えた。また、66年以降の文化大革命運動ではジェノサイド(大量虐殺)によりモンゴル人に約40万人もの犠牲者が出たにもかかわらず、中国政府はいまだに真相究明に着手していないと不満を表明した。

 クリルタイが中国内外の民主運動家から幅広い支持を得ているのには理由がある。中国は香港をイギリスから取り戻す際に「高度の自治」を保障すると約束したが、とっくに形骸化した。言論の自由を主張する書店主らはひそかに大陸に拉致された。

【参考記事】文革の真実を求める中国国民を黙殺する「日中友好」の呪縛

 民意で選ばれた香港議会の青年議員は宣誓式で中国への帰属意思表明を拒否したために、中国政府によって議員資格が剝奪された。自治の建前とは裏腹に、大陸流の共産党独裁政治を世界有数の自由港・香港でも確立したいのが習近平(シー・チンピン)政権の本音だ。

 台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権も中国に大きな恐怖を感じている。総統選で現状維持(「不統不独」)の民意が示された台湾に対して、海峡を挟んで配備された人民解放軍のミサイルがいつ島に飛んでくるかは予測不能だ。米軍に期待できるかどうかも不透明ななか、台湾は民族を超えた民主化運動団体と一致団結して中国政府と対話を模索している。

 東京に結集したモンゴル人は中国政府に対し、「真の民族自決の実現」を求めた。自決と自治には天地の差がある。中国共産党は21年の結党当初から、モンゴル人にもチベット人にも自決権を付与すると公言していた。「少数民族側に独立する意思があれば、わが党はその目標が実現できるまで支持する」との見えまで切った。それらはすべて国民党との内戦を勝ち抜くための甘言にすぎなかった。

 49年、中華人民共和国成立の数日前になって、共産党は「米帝国主義の侵略が迫っている」との口実で、自決を撤回して自治権のみを諸民族に与えると決定。実際には諸民族が主体となる自治ですらなく、漢民族による「漢治」でしかなかった。

 クリルタイが会場に東京を選んだのは、大日本帝国がかつてモンゴル人の居住地に満州国と蒙疆政権を樹立したから。モンゴル人は旧宗主国である日本の関与を求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ミランFRB理事「利下げなければ景気後退リスク」、

ワールド

ネクスペリアと親会社が初協議、対話継続で合意 中国

ワールド

ウクライナ巡る米ロ協議、「画期的ではない」=ロシア

ビジネス

ネットフリックス、WBD買収巡りつなぎ融資一部借り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中