最新記事

米外交

トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

2016年12月5日(月)16時59分
ニコラス・ロフレド

何か考えがあるのか?台湾と国交がなくてもお構いなしのトランプ Mike Segar-REUTERS

<トランプ次期米大統領と、アメリカと国交のない台湾の蔡英文総統との電撃電話会談に中国はカンカン、世界は騒然。トランプはいったい何を考えているのか>

 ドナルド・トランプ次期米大統領が外交上の慣例を破り外交関係のない台湾総統と電話会談を行った問題。混乱は政治や外交にも及んでいる。

 まず、先に電話をかけたのはどっちなのか。トランプは台湾の蔡英文総統から電話をかけてきたと主張するが、台湾総統の報道官は米NBCニュースに対し、10分間の電話会談は入念に準備されたもので、驚きはなかったと語った。台湾の英字紙「タイペイ・タイムズ(台北時報)」は、トランプは台湾をめぐる諸問題について側近から説明を受けた上で、政権移行チーム内の「親台派」が間を取り持った台湾総統からの電話に応じることに、自ら合意したと伝えた。

【参考記事】トランプ・蔡英文電話会談は周到に準備されていた?

 トランプは会談後、ツイッターに投稿した。「台湾総統が今日、大統領選の勝利を祝って電話をかけてきた。ありがとう!」

 アメリカが数十年来堅持してきた「一つの中国」の原則に疑念を投じる行動にトランプが打って出たことについて、激しい批判や懸念の声が上がっている。

無計画で重大な転換

 コネチカット州選出の上院議員(民主党)クリス・マーフィーはツイッターに投稿し、トランプの行為は「無計画に始めた、外交方針の重大な転換」だと批判した。「戦争はそうやって始まる。もし転換ではなく、奇をてらっただけだととしても、我が国の立場を信じられなくなった同盟国は離れていくだろう。どう転んでもひどい結果だ」。ヒラリー・クリントン陣営で広報担当を務めたブライアン・ファロンはツイッターで、「誰かがトランプには外交手腕がないと警告してくれればよかったのに」と投稿。そのコメントに「(トランプは)グローバルな危機を解決するどころか、新たな問題を生み出してしまう」と訴えるクリントンの動画を重ね、成り行きを皮肉った。

【参考記事】トランプ政権誕生で中台関係はどう動くか

 ジョージ・W・ブッシュ政権で外交政策を担当した経歴を持つアジア政策の専門家アーロン・フリードバーグは、米政治情報サイトポリティコに対し、中国側の反応についてこう語った。「中国政府は今回の件をトランプのへまでなく、意図的な挑発行為としてとらえる可能性が高い。戦略というのは単に行動を起こすだけでなく、相当な思考を伴うものだ。今回トランプ側には熟考の跡が見られなかった」

【参考記事】蔡英文新総統はどう出るか?――米中の圧力と台湾の民意

 だが共和党議員の一部は、電話会談の実現はトランプの大胆なリーダーシップの賜物だと持ち上げた。「台湾はアメリカの盟友。次期大統領がそのことを世界に知らしめるのは何も悪くない」と、インディアナ州選出の下院議員ルーク・メサーは米政治専門メディア「ザ・ヒル」で語った。「共産主義の残忍な殺し屋が政権を握るキューバと国交を回復したオバマの判断を賢明だと称えていた人々が、台湾を認知したトランプを批判する光景は皮肉でしかない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、4月は-14.0 ウクライナ

ビジネス

世界EV販売、3月は29%増 中国と欧州がけん引 

ワールド

中国、対米摩擦下で貿易関係の多角化表明 「壁取り払

ワールド

中国とベトナム、多国間貿易体制への支持を表明 鉱物
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中