ドゥテルテ麻薬戦争で常用者を待つ悲劇
出頭者に取材したいと言うと、アバソラは渋い顔をした。麻薬使用を認めた人たちの多くは身を隠して暮らしているらしい。
アバソラの案内でスラムの一角にある建物に向かった。そこには取り締まりが始まった直後に自首したルイシト・ボハが住んでいたという。1週間程前、覆面をした3人の男が夜中にバイクでやって来て、ボハをベッドから引きずり出し、2人の幼い子供の眼前で射殺した。「自首した時点で彼を逮捕して刑務所に入れていれば、悲劇は避けられたはずだ」と、アバソラは悔しげにつぶやいた。
建物のそばに立っていた男に声を掛けたが、名前は明かしてくれなかった。ボハを殺した男たちがまたやって来て、今度は自分が殺されると思うと夜もおちおち眠れず、バイクの音がしただけでビクッとするという。
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スラムの住人たちを守りたいが、できることはほとんどないと、アバソラは言う。麻薬使用者の居場所を警察に密告する連中がいて、警察の指示で自警団が動いているらしい。
アブソラの紹介で取材に応じてくれる女性に会った。麻薬を使用していた彼女の夫は数週間前に家を出て行ったという。「自首したのが裏目に出た」と、彼女は嘆いた。自警団に狙われた夫は、妻子を巻き添えにしないよう逃亡したのだ。夫は妻の身を案じて潜伏先も教えてくれないし、連絡もほとんどない。それでも彼女の元には夫を追う男たちから脅迫メールが届く。
ドゥテルテ大統領は最近、政府には今のところ麻薬常用者を更生させる資金はないとして、「当面は」殺すしかないと、平然と言い放った。
From GlobalPost.com特約
[2016年11月15日号掲載]