金融政策の限界が露呈、新たな現実に古い道具
10月5日、主要中央銀行の超低金利政策によって金利は無きに等しくなったにもかわらず、企業と家計の借り入れは一向に増えない。写真は日銀本店で記者会見する日銀の黒田総裁。4月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)
主要中央銀行の超低金利政策によって金利は無きに等しくなったにもかわらず、企業と家計の借り入れは一向に増えない。経済のサービス化、技術革新、高齢化といった新たな現実を前に、従来の金融政策は壁に直面している。
日本とユーロ圏はいずれも貸し出しの伸び率が約2%で低迷している。つまり金融政策の波及メカニズムは少なくとも部分的に壊れており、日銀と欧州中央銀行(ECB)は数兆ドルの資産を購入しても、思うような効果を得られないということだ。
インフレと成長に対する中銀の影響力が低下している様子は、現代の金融政策の土台であるインフレ・ターゲティングの有効性に疑問を投げかけている。
今週ワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)年次総会では、こうした新たな現実の持つ意味が主要議題の1つとなりそうだ。中銀は、金融政策に負荷が掛かり過ぎているとして政府に行動を求め続けるだろう。
先進国で見られるサービス業主体の経済成長への移行、技術革新、高齢化といった変化はどれも、企業と家計の投資を抑制し、貯蓄を増やし、成長とインフレ率を押し下げる要因になる。
パラダイムシフト
ECB理事会メンバーのヤズベツ・スロベニア中銀総裁は「中央銀行のパラダイムは変化している。波及メカニズムが変わり、道具も変わった。われわれの住む世界は大きく変化しており、中央銀行も対応する必要がある」と語る。
「生産性の低い伸び、人口増加率の鈍化、寿命の伸びといった問題が立ちはだかっており、これらの要因はすべて、中央銀行にとって重要な変数に影響を及ぼす」という。
日銀は先月、資産購入の量よりも金利を重視する政策に移行し、大規模な量的緩和が持続不可能になりつつあることを暗に自白した。政策が思うような効果を発揮しなかったと認めるのは珍しいことだ。
前日銀理事でみずほ総合研究所・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は「3年半も大規模な緩和を続けたにもかかわらず、人々の予想物価上昇率がバックワードルッキングなのであれば、金融緩和の不足が問題の在りかではないということだ」とし、「マネーの量は既に潤沢だと思う」と語った。