法のスキルを活用し、イノベーションを創出しやすい環境を作る
[水野祐]シティライツ法律事務所 弁護士
<就職した法律事務所で企業法務を扱う一方、クリエイターの創作活動を支援し始めた水野祐氏。2013年に独立し、今ではクリエイティブ、IT、建築・不動産の3分野を中心にリーガルサービスを提供している。クリエイティブ・コモンズや「チンポム(Chim↑Pom)」の活動の法的支援にも携わってきた水野氏は、何を基軸にしているのか>
僕の専門は著作権や知的財産権と言っていますが、取り扱う分野は多岐に渡ります。法律業界の中ではちょっと毛色が変わった弁護士かもしれません。
もともとサブカルチャーが好きで、大学時代はバンド活動や映画製作もしていました。就職した法律事務所は企業法務を広く扱っていたのですが、興味のある分野で法律の知識を生かしたいと思って、NPO団体「アーツ・アンド・ロー」や「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(NPO法人コモンスフィア)」の活動に個人的に携わるようになりました。
クリエイターの創作活動を法律の視点で支援
アーツ・アンド・ローは弁護士がクリエイターの無料の法律相談に乗るというもので、デザイン、映像、音楽、映画、写真、出版、アニメ、漫画、アートといったクリエイティブを法律の側面からサポートします。
例えば「自分が作ろうとしているものが法に抵触しないか」「既存の創作物をもとに新しい表現をしようと思っているが、著作権の侵害になるか」「自分が創作したものの著作権、知的財産権はどこまで認められるか」といった相談のほか、契約や労務にまつわる相談なども幅広く寄せられます。
弁護士への相談というと敷居が高いイメージがありますが、無料で気軽に接触してもらうことで、個人のクリエイターや小規模なベンチャー企業が創作活動に集中できるようになればと思っています。こういう小規模なプロダクションの活力が日本のクリエイティブを支えています。僕らはそのインフラ(社会的基盤)になれればと考えています。
クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの方は、インターネット/デジタル時代における著作権と新しいライセンスの仕組みを提供することで、創作物をオープンに流通させようという活動です。
オープン化といっても著作権を譲渡・放棄するのではありません。著作権はあくまでクリエイターに残したまま、著作権の一部だけを開放するという考え方です。デジタル化が進行してコピーや配布が手軽にできるようになったという時代の変化に対応して、著作権のあり方も変化するべきではないかということです。
こうしたクリエイター向けの法律相談や社会におけるオープンなデザインについて模索する中で、3Dプリンターなどを活用したデジタルファブリケーションを推し進めるファブラボ* の活動にも関わるようになりました。
ともに企画を練り上げていくプランナーの役目も
2012年末に勤めていた法律事務所を退職、翌13年に「シティライツ法律事務所」を立ち上げました。現在では、コンテンツ系のクリエイティブ分野、ウェブやテクノロジーなどのIT分野、それに建築・不動産分野という3つの軸を中心にリーガルサービスを提供しています。3Dプリンターの普及などにより、従来扱っていなかった製造業などのクライアントも増えてきました。また、建築家などはクリエイティブ分野で以前からもクライアントではありましたが、民泊や遊休不動産活用、街づくり、リノベーションといった具合にテーマに広がりが出てきていますね。
最近はオープンソースのビジネスへの援用、あるいはオープンイノベーションを実現したいということで、規模の大きな企業からも企画の法的な妥当性や利用規約の作り方について相談を受けるようになってきました。そういう意味では法人の垣根を越えて混ざり合う中で面白いものが生み出せるのではないかとも感じています。
何かトラブルがあったときに、それを解決する** のももちろん弁護士の仕事なんですけど、僕の場合、ことが起こる前に法に抵触しないラインはどのあたりかというアドバイスをしたり、プロジェクトがスムーズに進むように契約や段取りを考えたりといった仕事も少なくありません。そういう場合は、単なる法的助言者というよりは、一緒に知恵を絞って企画を練り上げていくプランナーのような役割を部分的に担っていると言えるかもしれません。
インターネットの普及でつくり手と消費者が直接つながるようになり、モノづくりに携わる人たちも適法性やライセンス、契約といった法的な事柄に無関心でいられなくなってきました。そういうところでつくり手や技術者の気持ちがある程度理解できたり、現場の感覚を説明するのに話が早い僕のような弁護士の出番が増えているのかもしれません。
【参考記事】ノイズこそ大切に守るべき創造性の種