最新記事

中央アジア

ウズベキスタン独裁者の死はグレート・ゲームの導火線か

2016年9月13日(火)16時40分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

Shamil Zhumatov-REUTERS

<25年以上強権政治を続けてきたウズベキスタンのカリモフ大統領が、後継指名のないまま死去した。緊張高まる中央アジアに日本ができることは何か>(写真は今月死去したカリモフ大統領)

 中央アジアの雄、ウズベキスタンのカリモフ大統領が今月2日死去した。78歳。ソ連末期から独立後の25年以上、一貫して大統領の座にあった。その間、強権政治を欧米に非難されながらも、外交・経済両面での自立を旨として、新しい国家の形をつけ、人口3000万の大国として安定を維持してきた。

 ウズベキスタンは人口と軍事力で、中央アジアで群を抜く。しかも、他の中央アジア4カ国のすべて、そして不安定なアフガニスタンにも接している。大統領の交代でこの国が不安定化すれば、中央アジアだけでなくロシアにも影響が及ぶだろう。

 ウズベキスタンの憲法は、大統領が執務不能になった場合、上院議長が代行し、3カ月以内に大統領選を行うものと定めている。この国では以前から、地方ごとのクラン(氏族)の勢力・利権争いがある。継承争いで対立が先鋭化し、これに大統領の長女グルナラ、あるいは中国、ロシアが絡めば、情勢はしばし荒れ模様となり得る。

 ウズベキスタンの北方、ロシアを挟んで日本の7倍の国土を持つ、石油大国カザフスタンの雲行きも怪しい。同国のナザルバエフ大統領も、ソ連崩壊以降ずっと権力の座にある。76歳と高齢なのに、後継候補が定まっていない。

【参考記事】トルコ政変は世界危機の号砲か

 彼が急死すれば、副首相を務める彼の長女ダリガも加わってカザフスタンで権力闘争が展開されるだろう。既に5月から国内でテロ・暴力事件が頻発。宗教過激派の犯行とされるものの、実態は闇の世界も関与しての利権、権力闘争とも言われる。

中国やロシアの「裏庭」

 こうした荒れ模様は世界にどんな影響を与えるだろうか。第一次大戦の前、中央アジアではインド洋への南下を目指すロシア帝国と、それを阻止する大英帝国の間でさや当てが起きた。

 だが、こうしたグレート・ゲームの再来はないだろう。そもそも、今の帝国アメリカは中央アジアに本格的に関与する意欲を持っていない。介入の大義名分がない上に、軍隊を送ろうにもこの内陸部では安全に兵器・物資を運び込むことができない。

 ロシアはこの地域に支配欲は持っていても、それを実現する経済力を欠いている。ロシアは旧ソ連の勢力圏を回復しようと、EUをまねた政治・経済圏構想「ユーラシア連合」を提唱し、安全保障面では集団安全保障条約機構(CSTO)を立ち上げたが、いずれも未熟なままだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 2人負

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が

ビジネス

独VW、リストラ策巡り3回目の労使交渉 合意なけれ

ビジネス

日産、米国従業員の6%が早期退職に応募 12月末付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中