ドイツ「最強」神話の崩壊
Ina Fassbender-REUTERS
<難民問題やテロで混沌とするヨーロッパで、唯一政治も経済も安定していたドイツが、極右の台頭に揺さぶられている>(写真は、デュッセルドルフのパレードで登場した、EUと戦争・テロとの板挟みになる難民の姿をモチーフにした山車)
2022年のフランス大統領選をめぐる混乱を描いた、ミシェル・ウエルベックの近未来小説『服従』(邦訳・河出書房新社)。既存の政党への不信感から、極右勢力と穏健なイスラム政党が伸長し、パリを中心にフランス国内ではテロや銃撃戦が頻発。最終的にはイスラム政党が勝利を収めるのだが......。
前評判では、『服従』はあまりにも荒唐無稽で挑発的だと批判された。ところがその刊行日である昨年1月7日、くしくもパリではシャルリ・エブド銃撃事件が発生。急に小説の内容がリアルに感じられるようになり、大きな話題を呼んだ。
ドイツは、そんな混乱とは無縁と考えられてきた。ヨーロッパ経済は危機的状況にあるなか、輸出産業は絶好調。中道派が政権を握り、有権者はナチスの苦い経験から学んだ「政治的冒険主義を避ける」という暗黙のルールを守ってきた。
移民を社会に融合させるという点でも、ドイツは比較的うまくやってきた。第二次大戦後に大量に受け入れたトルコ人出稼ぎ労働者との関係は今もぎくしゃくしているが、パリやロンドンの郊外にあるような極度に緊張した地区はない。
【参考記事】ドイツの積極的外交政策と難民問題
このためドイツは、ヨーロッパのどの国よりも移民の統合に成功し、一般市民は多民族的なアイデンティティーを受け入れるかに見えた。つまりウエルベックがフランスで予見する破滅的状況とは無縁に見えた。
そこに異変が起きた。
シリア人とイラク人は誰でも歓迎するというアンゲラ・メルケル首相の約束に、国内で不満が拡大。昨年の大みそかに起きたハンブルクやケルンでの移民男性多数による盗みや性犯罪(一部は虚偽)が報じられると、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)の人気が急上昇。3月の統一地方選で大躍進した。
二大政党(中道右派と中道左派)の支持率は、第二次大戦後初めて計50%を割り込んだ。移民に対する大きな不安、中道政治の弱体化、権威主義的な右派の台頭という、社会不穏を招く「三点セット」がそろった。