最新記事

年金運用

カルパースのCSR投資はリターンを犠牲にした無責任投資

2016年8月12日(金)16時00分
ダイアナ・ファークゴット・ロス(マンハッタン・インスティテュート、エコノミクス21ディレクター)

RomoloTavani-iStock.

<アメリカ最大の年金基金カルパースの過去1年の運用成績が0.6%にとどまった。同基金の20年間の年平均運用利回りは7.8%だ。敗因の1つは、企業の社会的責任、即ちCSRに配慮した投資という考え方が間違っていたからではないのか>

 アメリカ最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は、今年6月末までの年間の運用成績が2009年以来、最低となったと発表した。同基金はこれまで「社会的責任(CSR)投資を行う」という運用方針だったが、カリフォルニア州に住む納税者のためにも、本当にこれでいいのかどうかを見直す時期だ。

 2016年6月30日までの1年間のカルパースの運用成績は0.6%。過去20年間のカルパースの年平均運用利回り7.8%を大きく下回っただけでなく、昨年度の目標だった2.5%にも届かなかった。敗因の1つは、CSR投資に力を入れ過ぎたことではないかと思われる。

【参考記事】「公的年金が数兆円の運用損!」が、想定内のニュースである理由

 カリフォルニア州の年金は確定給付型なので、約束した年金を支払うためには、インフレ率を上回るスピードで運用資産を成長させる必要がある。それができなければ、カリフォルニアの納税者は多額の積立債務を抱えることになる。

 カルパースは2014年に、サステナブル(持続可能な)投資に関するレポートを発表し、「環境・社会・ガバナンス(ESG)」に配慮した企業を重点的に選んで投資していると述べた。目先の利益だけを追求する企業より、社会や環境にも配慮する企業のほうが長期的にはより高い成長を遂げることができる、という投資哲学が背景にある。儲かっている企業でも、社会や環境に有害だと判断すれば投資しない。

米労働省のお墨付き

 筆者の同僚スティーブン・マランガは、カルパースがCSR投資を始めたことで、カリフォルニアの納税者は多大な犠牲を強いられていると書いた。それだけではない。何十億ドルもの資金を、政界とつながりのある企業に注ぎ込んだのだ。

【参考記事】「年金は70歳から」の英断

 カルパースの運用成績が実際に低迷していることで、CSR投資の考え方そのものが賢明なのかどうか疑問視されている。ジョージ・W・ブッシュ政権下の2008年、米労働省は、年金の受託者は「加入者ならびに受益者の利益のみを考えた最善の」運用を行うよう通達した。「受託者責任」と呼ばれるこの考え方は、厳密には州や地方の年金には適用されないが、年金が投資判断を行う際のユニバーサルな指針となったと、ボストン大学法科大学院のデビッド・ウェバー教授はワシントン・ポスト紙で述べている。

【参考記事】日本の巨大年金基金はこうしてカモられる

 さらに労働省は2015年、新たな関連規則案を発表。年金は、社会的・環境的な基準を念頭に置いて投資先を決めてもよいとした。これにより、州ならびに地方の年金は、CSR投資に力を入れるようになった。カルパースはそれ以前からCSR投資を始めていたが、それに弾みがついた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中