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中国経済中国政府肝いりのイノベーションセンターが乱立、隠れ不動産バブルか
7月7日、中国政府が経済活性化に向けてイノベーション推進を呼びかける中、創造性支援を名目に地方政府によるハコモノの新設が相次いでいる。もっとも問題なのは肝心の起業家が入居しないことだ。天津市の高速鉄道駅で5月撮影(2016年 ロイター/Sue-Lin Wong)
中国政府が経済活性化に向けてイノベーション推進を呼びかける中、創造性支援を名目に地方政府によるハコモノの新設が相次いでいる。もっとも問題なのは肝心の起業家が入居しないことだ。
「大衆創業」、「インターネットプラス」といったスローガンを掲げ、中国政府はイノベーションセンターの設立を呼びかけており、次の馬雲(ジャック・マー)氏(電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディング創業者)が出てくることを期待している。
インターネット調査会社iiMediaによると、中国全土で「イノベーションセンター」が出来上がっており、向こう5年で2倍強の約5000カ所に達する見通し。ただ、大半のセンターは入居率が40%にすぎないという。
多くのセンターは小規模な都市や町にあり、新興企業を引き付けるのに理想的なロケーションとは言えない。地元に製品を販売できるような市場も、サプライチェーンもないためだ。センター自体も単に机や電話といった基本的な設備を提供するのが主で、多くの新興企業が必要とする金融およびマーケティング面での支援は見当たらない。
結果として、製鋼所と同様、イノベーションセンターも供給過剰となっている。
天津市のセンターで日々の業務を営むレイライ・マネジメントのパートナー、シー・ジーチアン氏は「バブルのリスクは極めて大きい」と指摘。「政府やセンターの管理者の双方にとって試練だ。満足いくほどの起業家がいない」と述べた。
工業情報省はコメントを拒否。国家発展改革委員会にコメントを求めたが、回答を得られなかった。
iiMediaによると、イノベーションセンター向けの資金の約8割は政府もしくは大学などから集められているという。中国の大学は政府の支援を受けている。
ベンチャーキャピタルファンドSOSVの投資パートナー、ウィリアム・バオ・ビーン氏は「政府主導のプロセスで誕生した企業が成功する事例をあまり見たことがない」と話す。
<金食い虫のイノベーションセンター>
河北省懐来県の小さな町である沙城は中国政府の呼びかけに応え、25階建てのタワービルを2棟建設。1棟をオフィスビルとし、もう1棟をイノベーションセンターに充てた。
しかし、新興企業に机の提供や一定期間の賃料免除といった優遇策を設けるイノベーションセンターはガラガラ。床にはごみやほこりが散らかっている。
イノベーションセンターに隣接する場所で浴室用器具販売店を経営するリウ・ハイヤンさん(30)は「起業家になろうとは思わない。お金が必要だし、私のような人間に選択肢は多くない」と語った。イノベーションセンターについては、鉄道で約4時間の距離にある北京の学生や起業家を呼び込もうとしているのだろうとの考えを示した。
沙城当局はコメントを拒否した。
住民らは北京との高速鉄道が2019年に完成すれば、経済状況が改善すると期待。所要時間は30分に短縮される見通しだ。
地元政府と強い結び付きを持つある実業家は匿名を条件に「イノベーションセンターは金食い虫だが、長い目で見れば、地域に税を納め、雇用をもたらす企業を生み出すと期待している」と述べた。
<起業文化を妨げる要素>
ベンチャーキャピタリストによると、新興企業は、既に成功しているイノベーションセンターがあり、有望な市場を持ち人材が見つけやすい場所に引き寄せられる。
新興企業が集まる5大都市は珠海、北京、広州、上海、深センとなっている。地方にいきなりイノベーションセンターをつくっても有力な新興企業が生まれたり、集まったりすることはないとみられている。
また、専門家によると、中国の起業文化を妨げる要因も存在する。
中国の若者は安定した職に就くことを求める親からのプレッシャーにさらされており、起業はリスクが高すぎるとみられている。
北京で入居率85%の民間コワーキングスペースを運営しているボー・イーチュン氏は、暗記中心で創造的思考の発達を妨げる中国の教育システムにも問題があると指摘。「教育水準が高まらなければ、イノベーションも高まらない」と話す。
前出のバオ氏は、たとえこれら全ての要素が原因だとしても、政府が元起業家やベンチャーキャピタリストと協力すれば成功する可能性は高まると指摘。「政府自身が投資決定を行ってはうまくいかない」と語った。
(Sue-Lin Wong記者 翻訳:川上健一 編集:加藤京子)