最新記事

新冷戦

NATOはロシアを甘く見るな──ラスムセン元NATO事務総長

2016年7月4日(月)21時35分
アナス・フォー・ラスムセン(元NATO事務総長、元デンマーク首相)

NATOnoInts Kalnins-REUTERS

<ロシアがクリミアを併合した2014年以降、NATOの対ロシア戦略は協調から対決へ180度転換した。今週末にワルシャワで開かれるNATOサミットではさらに対決色が強まるだろう。ロシアを止めるにはどうしたらいいのか、デンマーク首相を務めたこともある元NATO事務総長、ラスムセンが提言> 

 今週の金曜と土曜は、ポーランドのワルシャワでNATO(北大西洋条約機構)諸国の首脳会談が行われる。課題は、「東方」に対する能力と存在感をいかに高めるか。ロシアに対する西側の新しい対抗策の一環だ。

 NATOワルシャワ首脳会議が成功すれば、軍事費削減と政治的不確実性に揺れるNATO諸国も安定し、士気も上がるだろう。

 ロシアに対する新しい対抗策は、ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部に軍事介入した2014年にウェールズで開いたNATOサミットで浮上した。2014年以前の対ロシア戦略は対話と協調が第一だったが、この年を境に前線での断固たる姿勢と抑止に変わった。

【参考記事】東欧でのNATO軍事演習にプーチンは?

 ロシア政府の意図を甘く見てはならない。ロシアと国境を接する親欧派の国々に対する恫喝や妨害の背後には、抜きがたい思想の衝突がある。西側が法による支配、官僚の説明責任、民主選挙などを重んずる一方、ロシアには権力者が野心を満たすためなら市民の犠牲も辞さない制限なき国家権力がある。

【参考記事】ドイツが軍縮から軍拡へと舵を切った

 だが衝突は東西の国境だけで起きているのではない。ロシア政府は明らかに、戦後我々が享受してきた自由主義的な世界秩序と西側の結束を乱そうとしている。天然ガスを使って西欧の分断を画策したり、国営テレビ局を通じて欧州とアメリカの間の自由貿易協定の悪口を広めたり。西側の分裂を誘い発展を妨げるのが目的だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、イギリスのEU離脱決定を熱烈に歓迎した世界でほぼ唯一の指導者だろう。

対話から対決へ

 我々が現在のライフスタイルを守るためには、ロシアに対する経済制裁のコストやロシアと和解して得られる潜在的な利益よりも、NATOによる抑止、結束、共同防衛が重要だということを、ヨーロッパの同盟国は知らなければならない。プーチンの国内向けプロパガンダに乗せられて緊張を高めることがあってはならないが、悪いことをしたら見ないふりをしてはならない。NATOはロシアと協力できるときは協力するが、対決しなければならないときは対決する。

【参考記事】スウェーデン核攻撃を想定、ロシアが軍事演習

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中