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中国経済人民元の国際化、イギリスEU離脱ショックが追い風か
7月6日、英国民投票でEU離脱派が勝利すると、オフショア人民元の取引拠点としては世界有数のロンドンの地位が打撃を受け、中国政府による人民元国際化の取り組みを後退させるのではないかとの懸念が広がった。写真は人民元とポンド紙幣。北京で1月撮影(2016年 ロイター/Jason Lee/Illustration/File Photo)
英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利すると、市場関係者や中国メディアの間では、オフショア人民元の取引拠点としては世界有数のロンドンの地位が打撃を受け、中国政府による人民元国際化の取り組みを後退させるのではないかとの懸念が広がった。
ただ当初の混乱が和らぐとともに、そうした悲観論は行き過ぎだとの声が一部の銀行関係者やアナリストから聞かれるようになった。ブレグジット(英国のEU離脱)が影響しないわけではないが、かえって中国が欧州大陸のいくつかの都市に人民元取引の新たな拠点を育成するきっかけとなり、結果的に人民元の国際的な利用が拡大する可能性もある。
ハンセン銀行のグローバル銀行・市場責任者、アンドルー・フン氏は「ロンドンは世界最大の外為取引センターの座は維持するだろう。しかしブレグジットを受けて他の金融サービスの一部は別の地域に移る恐れがあるかもしれない」と語り、現時点では外為トレーディングが人民元国際化の重要な要素になっていると付け加えた。
中国にとっては、10月から人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨に採用されるのを控えて人民元の国際的な利用拡大を推進していた矢先に、ブレグジットという災難に見舞われた格好だ。
国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、3月時点でロンドンは人民元決済センターとしては香港に次いで世界第2位の規模だった。
<パスポート喪失の懸念>
中国の大手行は過去5年でロンドンに人民元を集約的に取引・決済するためのインフラを築いてきた。また今年6月には国外で初めて発行された中国のソブリン債がロンドンに上場を果たした。
ロンドン証券取引所グループによると、今年だけで50を超える人民元建て債がロンドンで上場され、この件数は広域中華圏を除くと他のどの金融センターよりも多い。
ホーガン・ロベルズ(上海)のパートナー、アンドルー・マクギンティ氏によると、今後懸念される材料の1つは、英国が単一の免許(パスポート)でEU域内に自由に金融サービスを提供できる権利を失う恐れだ。
同氏は「もしも英国の金融機関がEUのパスポートを喪失して人民元建て商品を域内で新たな認可を受けずには販売できなくなれば、英国をオフショア人民元取引センターの最有力地と位置付けている中国の姿勢に影響を及ぼさないだろうか」と問いかけている。
もっとも英国がこの権利を全面的に失う公算は小さいとの見方が多い。
こうした中でロンドン証券取引所グループの株式責任者、ブライアン・シュウィーガー氏は先週ロイターに、中国がオフショア人民元取引拠点として魅力を感じているロンドンが長年かけて築き上げた国際投資家が集まる基盤こそが、英国とEUのこれからの交渉の中心的な問題になると語った。
<拠点拡大>
それでもブレグジットに背中を押され、中国政府はリスクヘッジのためにEU域内にオフショア人民元取引の拠点を増やそうとするだろう、というのがアナリストの見方だ。
中国光大銀行香港支店のトレジャリー副責任者、Ngan Kim Man氏は「フランクフルト、パリ、チューリヒはオフショア人民元事業を非常に積極的に展開している」と指摘した。
ハンセン銀行のフン氏も、パリは金融インフラが整っており、フランクフルトは欧州中央銀行(ECB)の所在地という有利な点があるとした上で、ダブリンも税率の低さから強力な候補地になると予想する。
ANZ(香港)のシニアエコノミスト、レイモンド・ユン氏は「ブレグジットは中国の人民元国際化計画にとって悪いことではないかもしれない。国際化の新しい局面を生み出す可能性がある」と期待を表明した。
(Michelle Chen、Michelle Price記者)