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中国は南シナ海にも防空識別圏を設定するのか

2016年6月14日(火)16時20分
アンキット・パンダ

中国にとってのメリットは

 ADIZを設定するのか否かの議論で見失われがちなのは、中国にとってそれは価値あることなのかという問題だ。ADIZにはコストとメリットの両方がある。コストはもちろん、フィリピンなど近隣諸国から受ける非難に加え、スクランブルのために南シナ海に軍用機を配備するなど軍事支出もかさむ。

 ではメリットとは何なのか? ADIZを設置すれば、他国による予告なしの領空侵犯のリスクを軽減できる。だが南シナ海で圧倒的な軍事力を誇る中国にADIZが必要とは思えない。東南アジア諸国の空軍が連携して中国に奇襲をかけてくる可能性は低いからだ。それよりも、ADIZの設定は領有権の支配をあらためて強調するという、政治的な意思表示としてのメリットとして捉えられる。

【参考記事】尖閣接続水域進入は中露連携なのか?――中国政府関係者を直撃取材

 中国は南シナ海にADIZを設定するのか――この問題は3~5日にシンガポールで開催のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)と、6~7日に北京での米中戦略・経済対話の場で公式・非公式に話し合われる。

 もし中国が本当にADIZの設定を計画しているのなら、その決定は既に下されていて、発表の時機を待っているだけのはずだ。もし発表が今年中になかったとしたら、南シナ海の緊張を和らげるにはどうするべきかというもっと重要な問題に、私たちは集中できるだろうが。

From thediplomat.com

[2016年6月14日号掲載]

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