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銀行セブン銀ATM不正引き出し事件、利便性と防犯のバランス板挟み
6月1日、セブン銀行の現金自動預払機(ATM)で発生した偽造カードによる巨額の不正引き出しは、メガバンクを含めた国内金融機関に大きな「悩み」を投げかけている。写真は都内で4月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
セブン銀行<8410.T>の現金自動預払機(ATM)で発生した偽造カードによる巨額の不正引き出しは、メガバンクを含めた国内金融機関に大きな「悩み」を投げかけている。犯罪防止の決め手が見つからない中で、一部の金融機関は引き出し限度額の引き下げを検討しているが、外国人観光客増という政府の成長戦略に沿って、海外カード受け入れのATM増設を計画していた金融機関は「顧客利便」と「犯罪防止」の狭間で難しい対応を求められている。
海外カード対応、セブン銀・ゆうちょ銀が先行
海外からの観光客が、日本に来てもクレジットカードで現金を引き出せるようにするため、政府は2015年の成長戦略に海外発行のクレジットカードでの現金引き出しが可能なATMの普及促進を明記。これに伴い、各行は準備を進めてきた。
最も対応が進んできたのが、セブン銀とゆうちょ銀行<7182.T>で、セブン銀の約2万2000台、ゆうちょ銀の約2万7000台のATMで海外カードが利用できる。
セブン銀は、日本各地の観光地に営業基盤を持つ地方銀行と協力し、海外カードに対応するATMを設置してきた。1月には海外のクルーズ船が寄港する長崎港、5月に長崎市の商業施設に十八銀行<8396.T>と共同で海外発行カード対応のATMを置いた。十八銀が設置場所を選定、セブン銀がATMの保守管理を担う。
セブン銀ATMでの海外発行カード利用件数は、2015年に前年比63.0%増の585万件となり、過去最高を更新。ニーズの高さをうかがわせた。
メガバンクも、海外カード対応のATMを設置し始めている。みずほ銀行は現在、Visa、MasterCard対応のATMを34台設置済み。今年度中に100台程度、2020年までに1000台規模まで増設する方針だ。
三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行は現状、Visa、MasterCard対応のATMを設置していないが、各行それぞれ来年度末までに1000台を目標に設置する計画を掲げる。
顧客利便か犯罪抑止か
こうした動きに「冷水」を浴びせるかたちになったのが、偽造カードによるセブン銀ATMからの不正引き出し事件だ。
複数の銀行関係者によると、現状では正しい情報が記録された偽造カードを認知して現金の払い出しを止めることは難しく、引き出し限度額の引き下げで対抗している。
セブン銀は5月27日、海外発行のカードによる引き出し限度額を1回あたり10万円(中国銀聯カードは20万円)から5万円に引き下げると発表した。同銀はセキュリティ強化の観点からATMをICカード対応に変更済みだが、今回の引き出し限度額の引き下げ決定は、顧客の利便性よりも犯罪抑止を優先させたかたちだ。
ゆうちょ銀は2015年1月、偽造カード対策として1回あたりの引き出し限度額を20万円から10万円に引き下げたが、今回のセブン銀での事件を受け、限度額のさらなる引き下げを検討している。同銀の広報担当者は「偽造カード対策は絶えず行っている」と述べた。
セブン銀ATMでの不正引き出し事件後も、みずほ銀や三井住友銀は、海外カード対応ATMの設置台数計画を変更しない方針。三菱東京UFJ銀は台数の計画は変更しないが、引き出し限度額を引き下げることなどについて検討を始めた。
ある銀行の関係者は「外国人観光客のために利便性を高めれば、犯罪被害に遭うリスクが高まる。犯罪を防ごうとして引き出し限度額を下げれば利便性が落ちてしまう」と話す。「偽造カード対策に正解はなく、絶えず対策を打っていくしかない」(メガバンク関係者)とされるなかで、利便性と犯罪抑止をいかに両立させるか、難しい対応を迫られている。
(和田崇彦 編集:田巻一彦)