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日本経済「一億総活躍」で政府内に対立、財源確保をめぐり紛糾
安倍政権の目玉施策が求める巨額の財政支出をめぐり議論
4月15日、安倍晋三首相が目玉政策に掲げる「一億総活躍社会のための実現プラン」をめぐり、政府内に対立が生まれている。写真は都内で2月撮影(2015年 ロイター/Thomas Peter)
安倍晋三首相が目玉政策に掲げる「一億総活躍社会のための実現プラン」をめぐり、政府内に対立が生まれている。肝心の安定財源について、税収増をどのように活用するか合意形成が進まずにいる。同プランは5月連休明けに公表される予定だったが、財源問題が紛糾したまま、あいまいな表現になる可能性も出てきた。
2012年12月の第2次安倍政権発足以降の税収増加は、消費税分を除き過去3年間で、国と地方を合わせて13兆円程度、国の一般会計分だけで6兆円程度となっている。
この増収部分の一部を目玉政策の財源に充てるべきだと、安倍首相の周辺や経済財政諮問会議の民間議員、一部の経済官庁幹部が主張している。
ターゲットになっているのは、景気変動に左右されず税収のコア部分と位置付けられる税収の土台部分の増加額だ。政府内では「土台増」と呼ばれている。2014年度の税収を例にとると、当初の税収見込みと決算段階の税収の差が1.2兆円ある。
ただ、これを全額恒久政策の財源に充てられるのか、意見が分かれている。
複数の政府関係者は、それがどこまでアベノミクスの成果なのか、どの程度使っていいのか、判断が難しいと指摘する。想定を超える景気の強さや為替効果による一時的な税収増なのか、失業率低下など経済体質の改善による恒常的な効果なのか、見分けがつかないためだ。
財源問題が焦点になるのは、一億総活躍プランの目玉政策に巨額の歳出が伴う現実があるからだ。諮問会議では、子ども・子育て世帯への支援拡充策として、2020年までの早期に家族関係支出をGDP比倍増させるとの提案が出ている。GDP比1.35%(2011年)から倍増させるとすると、それだけで6.8兆円の歳出上乗せとなる。
ある経済官庁の関係者は「税収増を17年度予算から生かしたい。新たな政策に当初予算から使えるようにすれば、好循環が生まれる」と指摘。
税収増の一定部分を翌年度の本予算に組み込み、保育士・介護士の給与引き上げや子育てバウチャーなど、子育て・介護支援策などの恒久的な政策の財源に充てることを狙っている。
その根拠に挙げるのが骨太方針の文言。15年6月に閣議決定された骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)では、子育て・家族支援について安定的な財源を確保して実施することが明記されている。
そして16年の骨太方針には「アベノミクスの成果の活用について、方針を明確化する」ことが諮問会議でも提案されている。
だが、このスタンスに対し、税収上振れ分の活用に前向きな経済官庁幹部や諮問会議民間議員の中からも「税収は景気によって大きく変動するため、常に一定部分を確保できるとは限らない」との意見が出ている。
その結果、一部の関係者家からは「安定財源を確保して歳出を上乗せすることが難しい場合は、他の社会保障費を削減することになる」との選択肢も示されている。
もう1つの問題点は、たとえ税収の土台増が継続しても、18年度まで3年間の歳出増の「目安」として1.6兆円という枠が、昨年の骨太方針に盛り込まれていることだ。
また、税収増による剰余金は、財政法で税収上振れ分の半分を国債減額に使うと規定されている。残り半分を補正予算で使うことは可能だが、翌年度の本予算に使うことはできないという法的制約もある。
ただ、一部民間議員や政府高官の間では、この目安を外して、新たな政策には歳出増を認めるという政策スタンスの議論が進んでいる。昨年の骨太方針で目安という文言を入れたのも「歳出策を柔軟に運用するために、あえて緩い扱いにした」(ある政府高官)というわけだ。
しかし、財務省は税収に恒久的な「土台増」分が存在するという考え方や、それを新たな政策に活用できるという考え方に反対の立場。また「歳出の目安を外すと財政健全化から遠ざかる」と、その活用に批判的だ。「税収増部分を歳出に回してよい財政状況にはない。構造的な財政赤字を抱えている以上、国債減額を優先するのは当然のこと」(同省高官)と説明する。
意見集約の必要から、 今月4日の経済財政諮問会議では、民間議員の伊藤元重・学習院大学教授が「毎年継続的にやる必要がある政策について、その財源をどう賄って拡大均衡を目指すかは、一時的対応でなく制度改革も含めて継続的に対処する仕組みが必要」と提言した。
「一億総活躍」プランの発表まで約1カ月となり、政策は最後の詰めの作業を迎えているが、裏付けとなる安定財源は未だはっきりしない。「一億総活躍社会のためにアベノミクスの成果の活用方針を骨太に盛り込むといっても、具体的な表現は難しいかもしれない」(政府関係者)との声も出てきた。安定財源の議論は、あいまいに終わる懸念もある。
(中川泉 編集:田巻一彦)