最新記事

いざとなれば、中朝戦争も――創設したロケット軍に立ちはだかるTHAAD

2016年2月22日(月)17時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北に存在感を誇示 韓国にある鳥山空軍基地に飛来した米軍のステルス戦闘機(2月17日) Kim Hong-Ji-REUTERS

 北朝鮮の制裁決議に関する国際世論の下、北を追いつめて米朝戦争に巻き込まれるくらいなら、いっそ北を攻撃して中朝戦争を起こした方がましだという声さえ中国にはある。したたかな中国だが、中国外交戦略の失敗か?

中朝軍事同盟を破棄してでも

 中国が北朝鮮への支援を全て断ち、中朝国境貿易をも完全に閉鎖することは、出来ないわけではない。しかしそれを断行した時に何が起きるか、容易に想像がつくが、一応シミュレーションをしてみよう。

 まず自暴自棄になった北朝鮮は、戦争への火ぶたを切ってしまうだろう。それもまだ財力が持つうちに早めに踏み切る可能性がある。

【参考記事】マイナス40度にもなる酷寒のなか、元帥様だけが暖かい

 このとき北朝鮮が中朝友好協力相互援助条約(事実上の中朝軍事同盟)を中国が破ったとして、戦争をする相手国は米韓だけでなく、中国をも含むことになる。

 となれば、中国は米韓とともに北朝鮮と戦うことになり、戦争の軍配は明らかに米国側に上がるので、戦争終了後の朝鮮半島における米軍のプレゼンスは大きくなる。

 現在は北朝鮮から韓国を守るためということを目的とした上での在韓米軍であり、THAAD(米国の高高度ミサイル防衛システム)の韓国配備計画ではあるが、北朝鮮が消滅した後でも、東シナ海や南シナ海の「防衛」のためと称して米軍およびそのオプションは朝鮮半島に居座るかもしれない。今年のアメリカ大統領選の結果によっては、北朝鮮が消滅すれば朝鮮半島から引き揚げるかもしれないが、中国の陸続きに米軍が駐屯する可能性は低くない。中国としては、安全保障上不利になる。

 もう一つの仮定として、中国が国連安保理で妥協できるギリギリくらいの程度の制裁に賛成票を投じた場合を想定してみよう。中露がねばって、その他の安保理常任理事国から譲歩を引き出した場合である。譲歩と言っても、今回ばかりは制裁レベルは高いはずだ。

 やはり追い詰められた北朝鮮は戦争へと走る危険性を孕んでいる。

 万一、この条件下でも北朝鮮が戦争を起こした場合は、北朝鮮は中国に対し中朝軍事同盟を理由として、北朝鮮側に立って米韓側(おそらく連合国側)と戦わせようとするだろう。それは最悪のシナリオなので、中国としては絶対に避けたい。そういう情況に追い込まれて戦争に巻き込まれることを中国は最も恐れている。なぜなら現在の中国軍の力では、絶対に米軍に勝てないからだ。敗北すれば、中国共産党による一党支配体制は必ず崩壊する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中