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北朝鮮「米韓に先制攻撃」声明に見る金正恩のメンタル問題
国際的な「人権包囲網」が敷かれるなか、米軍の細かな動きにまで詳しく言及した重大声明を発表した意味とは
朝鮮半島で高まる緊張 韓国・平沢の空軍基地で、F-22ステルス戦闘機の前で記者会見を行った米韓両空軍の司令官(2月17日) Kim Hong-Ji-REUTERS
朝鮮人民軍最高司令部は23日、「重大声明」を発表。金正恩第一書記ら最高首脳部をねらう米韓の「斬首作戦」に対する警戒感をあらわにし、作戦に投入される特殊部隊にわずかな動きでも見えれば、韓国大統領府(青瓦台)と米本土を先制攻撃すると警告した。
北朝鮮が「斬首作戦」に反応するのは今回が初めてではないが、今回の声明は米原潜やF-22Aステルス戦闘機、米第75レンジャー連隊、米海軍SEALsなどの動きにやたらと詳しく言及している。
確かに声明で言っているとおり、「過去の海外侵略戦争で悪名をとどろかせた米帝侵略軍の陸軍、海軍、海兵隊、空軍のほとんどすべての特殊作戦武力と、いわゆる『ピンポイント打撃』に動員される侵略武力が一斉に南朝鮮に入ったことはかつてなかった」と言えるかもしれない。
北朝鮮と米韓が、ともに軍事的に身構えている構図だが、それも無理もない状況だ。
日本のマスコミ報道を見ていると、北朝鮮は孤立する一方のように思えるが、実際にはそれなりに外交的な「成果」を出しつつある。
中国の邱国洪駐韓大使は23日、韓国最大野党・民主党の金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員会代表との会談で、米国の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍への配備について猛反発した。
中国は、THAADのレーダーが自国領内に及ぶのを警戒している。韓国はこれまで、最大の貿易相手国である中国を怒らせまいと、THAAD配備の可能性について公式に議論することは控えていたのだが、さすがに北朝鮮の4回目の核実験と長距離弾道ミサイル発射を受けてしびれを切らした。
北朝鮮の行動により、米韓と中国(そしてロシア)の安保上の利害の不一致――つまりは北朝鮮を外交的に追い込むことの限界――が浮き彫りになったのだ。
北朝鮮は、国際社会で「人権包囲網」を敷かれた段階で、すでに日米との国交正常化に絶望している。
(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑)
つまり双方とも、「銃を抜く」しかない状況に至っていると言える。
ただ、北朝鮮はこれまで、勇ましいレトリックによる「威嚇」を散々繰り返してきたが、米軍が特殊戦団をこれ見よがしに韓国へ送り込むのは異例だ。実際のところ、いざ有事となれば、米軍は特殊戦団だけでことを決しようとはしないはずだし、たとえ「斬首作戦」を実行するにしても、隠密裏にことを運ぶだろう。
つまり、今回の動きは金正恩氏への心理的圧迫と見るべきであり、それに対する敏感すぎる反応は、正恩氏本人の「メンタル」を物語っていると考えて間違いなかろう。
(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。