「トランプ話法」のレトリックに隠された功罪
自分の考えを語る途中で言葉を濁したり、曖昧な表現をするトランプ話法の秘密とは──
2月16日、ドナルド・トランプ氏は、彼が実際に口にしない部分で多くを物語っている。米大統領選の共和党候補指名を狙うトランプ氏は、演説のなかで自分の考えを最後まで言い切らないことが多い。写真は9日、ニューハンプシャー州予備選で勝利演説する同氏(2016年 ロイター/Jim Bourg)
ドナルド・トランプ氏は、彼が実際に口にしない部分で多くを物語っている。米大統領選の共和党候補指名を狙うトランプ氏は、演説のなかで自分の考えを最後まで言い切らないことが多い。
突然言葉を切ったり、厳密な表現の代わりに曖昧な表現を使ったりする。中途半端な表現を使うのは、彼がいいかげんだからではない。
これは「エンテュメーマ(省略三段論法)」と呼ばれるもので、説得力のある会話スタイルの柱となるレトリック(修辞学)だ。その効果で、億万長者であるトランプ氏は、2016年11月の大統領選挙を前にした全国規模の世論調査で首位に躍り出た。
支持者にとって、トランプ氏の政治家としての話しぶりは他の誰にも似ていない。彼は遠慮なく自分の考えを語り、ためらいもなくライバルを中傷し、台本に頼っていないように見える。特に、自分の考えを語る途中で言葉を濁したり、演説のなかに曖昧な表現をちりばめたりする場合はなおさらだ。
例として、先日行われた共和党の公開討論会でのコメントを見てみよう。このなかで彼は、イスラム教徒を一時的に入国禁止とする自身の提案を擁護している。「私はイスラム教徒について話した」と彼は言う。「われわれは一時的に何か(something)しなければならない。なぜなら、何か(something)良からぬことが起きているからだ」
トランプ氏が何を言っているのか、その解釈は聴く者に委ねられている。修辞学を専門とする複数の教授によれば、これはつまり、支持者は実質的に彼の発言を自分自身の信念に合わせて解釈できるということだという。また、意識的か否かはともかく、これによってトランプ氏は、ライバルが彼を攻撃するための言質を取られることを避けられる。
厳密には、エンテュメーマとは、三段論法のうち少なくとも一つの前提を表明しないままにしておく推論方式である。このコンセプト自体は目新しいものではない。古代ギリシャの哲学者アリストテレスが解説しているし、過去の米国政治においても用いられてきた。
実際に、エンテュメーマはさまざまな形で現れる。ドラマチックな効果をもたらす間や、不完全な文、トランプ氏が用いる穴埋め式の「何か(something)」などがあると、米政治家などによる演説を研究している専門家は指摘する。いずれのケースでも、空白を埋めるのは聴く側だ。