黒田が見せた多彩な緩和手段、マイナス金利決定の舞台裏
荒技を打ち出した背景には先行して導入した欧州の実態チェックも
2月3日、日銀が切った「マイナス金利」のカードは、市場の意表を突いて、株安・円高の流れを止めた。写真は黒田日銀総裁。都内で1月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
日銀が切った「マイナス金利」のカードは、市場の意表を突いて、株安・円高の流れを止めた。最も効果が出たのは、市場が「限界」と感じていた「緩和手段」が豊富にあることを示した点だ。
それにより、投機筋の「円買い」を強くけん制する力を獲得したとも言える。その秘密裡に進んだ準備の裏側を探った。
黒田総裁の帰国直後に固まった方向性
日銀の黒田東彦総裁は1月22日、スイス・ダボスで開催されている世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」に参加するため、あわただしく東京・日本橋本石町の日銀本店をあとにした。
複数の関係筋によると、黒田総裁はその直前、現行の量的・質的金融緩和(QQE)の継続を前提に「追加緩和の案を用意するように」と事務方に指示した。
24日(訂正)に帰国した黒田総裁は、休む間もなく事務方から追加緩和のオプションを聞く会合を持つ。そこで提示されたのは「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」だった。総裁は、これによって追加緩和の障害となっていた政策打ち止め感も払しょくできると判断。28、29日の金融政策決定会合で提案することが固まったもようだ。
先行した欧州各国との意見交換
その間、事務方の準備作業は水面下で着々と進んだが、政府サイドでその動きを察知した関係者はいなかった。ある政府関係者は、日銀金融政策決定会合が開催される直前の27日夜、日銀の動きについて「今回はやらないとみている」と言い切っていた。
密かに進められた日銀の事前準備の一つに、マイナス金利を先行して導入したスイス、スウェーデン、デンマークなどにおける実態チェックがあった。
複数の関係筋によると、日銀はこれら3カ国と欧州中銀(ECB)を含めた複数の中銀と、マイナス金利政策を実行に移した場合に発生が予想される様々な現象について、かなり突っ込んだ意見交換を行った。
地銀危機を封印した3段階の階層構造
その成果の一つが、当座預金を3段階に分ける階層構造の導入だ。当座預金残高の全てにマイナス0.1%の利率を適用すると、金融機関の経営に負担がかかるため、これまでに積んだ分はプラス0.1%を維持した。
スイスなどは2階層となっているが、金融仲介機能を弱めることに配慮し、日銀は3階層とすることを決断した。ここで日銀が配慮したのは、地域金融機関の動向だったとみられる。
地域金融機関の当座預金残高は、所用準備額を除くと約20兆円で、QQE)が始まって以降3倍に膨らんでいるが、昨年6月以降は横ばいで推移している。つまり、この基調が今後も継続するなら、地域金融機関全体として負担が急増し、金融システム不安が地方から起きるというリスクを配慮したということだ。
市場の目安になったスイスなどの先行例
また、先行事例を研究した結果は、早速、日銀にとってプラスになる現象を生んだ。29日に発表した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入という発表文のページ1の脚注に、スイスでは0.75%、スウェーデンでは1.1%、デンマークでは0.65%とマイナス金利の先行例を明記した。