最新記事

韓国

保守化する「反北朝鮮」世代

ポスト太陽政策時代に育った若年層に広がる新手のナショナリズムが南北間の緊張を激化させる

2016年1月29日(金)17時50分
スティーブン・デニー(韓国政治学者)

北は「他国」 北朝鮮からの挑発に備え応戦の構えをとる韓国軍兵士(2015年8月) Kim Hong-Ji-REUTERS

 先頃、北朝鮮が実施したという「水爆実験」は「些細な出来事」──韓国の若者の間では、そう受け流す向きが多い。もちろん兵役中の青年をはじめ、自分たちの身に関わる事件と受け止めた者もいる。とはいえ実験の衝撃度は、朝鮮半島の内より外でのほうがはるかに大きかったというのが実情だ。

 北朝鮮の今回の挑発行為は目新しいものではなく、差し迫った問題とも言えない。だが、若者層が示した曖昧な態度や無関心の背後には、北朝鮮に対して強硬姿勢で臨むべきだという意識の高まりがうかがえる。

 韓国の20代は、直前の世代(30~40代)とは大きく異なる政治環境の中で大人になっている。彼らを取り巻く環境とは、どんなものか。ごく単純に言えば、それを形作っているのは「太陽政策」後の政治と10年に起きた武力挑発事件だ。

【参考記事】なぜ今「ヘル朝鮮」現象か

 それらの出来事に影響された若年層は今、「韓国人」としての帰属意識を強め、北朝鮮に対してより強硬な姿勢を見せる「新保守層」となって南北関係を悪化させている。

 98~08年まで実施された韓国の対北朝鮮融和策「太陽政策」の大きな特徴は、外交・経済関係の深化によって、南北関係および北朝鮮の国内事情の改善を目指した点にある。具体策には、北朝鮮に対する事実上、無条件の物質的援助も含まれていた。

 太陽政策を打ち出した金大中(キム・デジュン)大統領(当時)は、南北間の緊張緩和を進めたとして00年にノーベル平和賞を受賞。融和政策は、金の後継者である盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領にも受け継がれた。

 太陽政策の成否に関しては議論の余地があるものの、韓国政府の報告書は、北朝鮮に大きな変化をもたらすことに失敗したと結論付けている。韓国による人道支援物資が、北朝鮮内で本当に必要とする人に届かなかったと批判する声もある。

 一方、金と盧の両政権で顧問を務めた政治学者の文正仁(ムン・ジョンイン)ら擁護派は当時の米政権が北朝鮮を敵視し、安全保障状況を悪化させたことが政策の失敗につながったと主張する。成果もあるのは確かだが、太陽政策の遺産については、せいぜいでも「はっきりしない」としか言えない。

 太陽政策後、南北関係強化に対する支持は減った。そうした動向を決定付け、より敵対的な政策を後押ししたのが、10年に起きた2つの事件だ。

 その年の3月、韓国海軍哨戒艦「天安」が朝鮮半島西方の黄海上で沈没した。複数国から成る軍と民間の合同調査団は当初の推測どおり、北朝鮮による魚雷の攻撃が原因との調査結果を発表した(同調査団の結論に対しては今も異論がある)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

AI懸念が米金融株にも波及、資産運用新興の新ツール

ビジネス

MSCI銘柄入れ替え、日本はイビデンなど2銘柄を新

ワールド

米財務省、ベネズエラ石油・ガス探査・生産へライセン

ビジネス

パラマウント、WBD買収条件引き上げ 違約金など負
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中