最新記事

メディア

SMAP解散危機、ベッキー騒動は「ニュース」なのか?

マスメディアにジャーナリズムが育たないとしたらそれは視聴者、読者の側の問題でもある

2016年1月21日(木)18時00分
志葉玲(フリージャーナリスト)

メディアの役割 テレビ、新聞、週刊誌はこぞって「SMAP解散危機」「ベッキー騒動」を報じた

 マスメディアを批判する言葉として、ネット上でよく使われる言葉に、「マスゴミ」というものがある。権力や経済界に媚びへつらった報道をしたり、視聴率や売り上げ部数至上主義で、芸能ゴシップや低俗なテーマなどに長い時間をとったり、紙面を割いたりしていることへの、視聴者や読者のメディア不信を象徴している言葉だ。

 確かに、全体的に言えば、日本のマスメディアには、多くの問題があり、筆者も批判することも少なくないのだが、一方で、マスメディア内のジャーナリズム精神を持った良心的な記者やディレクターの苦労もよくわかる。彼ら自身が、現在のメディアの在り方に悩んでいるのだ。

「視聴者が何を求めているか」と「メディアが何を報じるべきか」

 先日、都内で催されたシンポジウム"後藤健二さん殺害事件から1年 ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか~取材現場からの自己検証"での、テレビ朝日の内藤正彦・ニュースセンター編集長の発言が、印象的であった。


「テレビで何を視聴者に伝えるべきなのか。視聴者が何を見たいのか。それが違うこともある。最近の例だと、SMAPの解散危機が大きな話題となっているが、インドネシア・ジャカルタでのテロも、もっと伝えるべきことだと思う。ジャーナリズムとして報じるべきことはあるが、一方で、視聴者が望むものを無視して良いというわけでもない。そこが難しい」

出典:シンポジウムでの内藤氏の発言要旨

(注:内藤氏の発言はテレ朝を代表しているわけではなく、あくまで彼個人としての発言である。)

 こうした問題提起、特に上記発言の前半部分は、常日頃、筆者も痛感していたことだ。先週はタレントのベッキーさんと人気バンド「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音さんとの不倫騒動や、SMAP解散危機がメディアを埋め尽くしていた。確かにそれが、数字が取れ、部数も伸びるからなのであろう。だが、日本のマスメディアは、全体的にもっと本来の意味でのニュース、ジャーナリズム的な報道の割合を増やすべきではないのか。シリアやイラク情勢の混迷が続き、欧米やロシアがますます「対テロ」に前のめりになる中で、アジアで起きたIS、あるいはその支持者によるテロは、過激思想が急速にアジア方面にも伝播しつつあることを象徴する事件だ。ISから名指しでターゲットとされている日本にとっても他人事ではない。

緊急事態条項、GPIFの巨額損失...軽視される重大テーマ

 また、他にも報じるべき重大テーマはたくさんある。たとえば、安倍総理は、参院選で与党が勝てば、改憲に乗り出すことを幾度も言及している。だが、改憲の目玉とされる「緊急事態条項」は、「独裁条項」、「民主主義破壊条項」と言うべき危険性をはらんでいる。要は、内閣総理大臣が「緊急事態」であると判断した際に、国会を通さず、内閣が法律を制定でき、かつ個人の人権を制限できるというものだ。つまり、ナチスがドイツを支配した際に活用された「全権委任法」と同様の危うさがあるのだ。日本での議会制民主主義を根本から変える可能性がある条項だけに、もっとその是非についてメディア上で議論されるべきであろうし、人々も関心を持つべきことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中