最新記事

アメリカ社会

右と左が憎み合う狂気の合衆国

2015年12月21日(月)17時30分
カート・アイケンワルド(本誌シニアライター)

 もっとも、動機を論じることにどの程度意味があるのか。

「国際テロだと言うなら話は違ってくるが、そうでなければ、銃乱射犯がISIS(自称イスラム国、別名ISIL)のイデオロギーに心酔していようと、人種差別主義のイデオロギーに染まっていようと関係ない」と、CIAのテロ対策センター出身で、現在は戦略安全保障情報コンサルティング会社ソウファン・グループの幹部を務めるパトリック・スキナーは言う。

「ネットの情報に影響されてISISに共鳴したか、ネオナチ思想を抱くようになったか、あるいは単にむしゃくしゃしていたのかという違いは、大きな問題ではない。人々の安全に対する脅威という点は同じだ」

 言い換えれば、問題は動機ではなく、銃弾だということだ。テロリストだろうがネオナチだろうが、上司を逆恨みする従業員だろうが、私たちの中に紛れている人間時限爆弾とも言うべき不満分子が銃弾を放てば、罪のない人々が死ぬ。

 アメリカは団結してこうした危険を減らす方策を探るべきだが、保守派・リベラル派双方が怒号を浴びせ合い、点稼ぎに躍起になっているありさまだ。

 銃撃犯が共和党か民主党か、どちらに登録していたかを問題にする人たちもいる。ある保守派ブロガーは「リベラル派は生命を尊重しない」という理由で、無差別殺人はすべて左派の仕業だと決め付けた。リベラル派のブロガーも「この国の政治的動機による国内発のテロはすべて右派の犯行だ」とやり返す。

 政治家やコメンテーターも憎悪の炎に油を注ぐばかり。今やどんなテーマでも冷静な議論ができなくなっている。例えば気候変動。地球温暖化に警鐘を鳴らす気候学者はアメリカ経済の地盤沈下をたくらむリベラル派の回し者と見なされ、温暖化を否定する論客は漏れなくエネルギー業界の御用学者呼ばわりされる。問題の根底にある事実には誰も目を向けない。

 共和党の大統領候補指名を目指すカーリー・フィオリーナは中絶反対派の支持をつかもうと、脳を取り出すために胎児を生かしている中絶クリニックをビデオで見たと嘘をついた。あきれたのは保守派がこの荒唐無稽な話をすんなり信じたことだ。

良識的な訴えもむなしく

 やはり共和党候補のテッド・クルーズ上院議員は大半の犯罪は民主党員の仕業だと断定、先月末にコロラド州の中絶クリニックで起きた銃乱射は「性転換した左派活動家」の犯行だと根拠なく主張している。

 一方、バラク・オバマ大統領は難民問題で、保守派が「夫を亡くした女性や孤児を恐れている」と批判。ヒラリー・クリントン前国務長官は共和党を敵に回すのを誇りに思うと宣言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

製造業PMI11月は49.0に低下、サービス業は2

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中