ベルギーの若者はなぜテロ組織ISISに魅せられたか
映画好きの「普通の若者」はある日シリアへと姿を消し、やがてテロ戦闘員として射殺された──
11月23日、モレンベークは、ベルギー首都ブリュッセルのなかでもモロッコ系ムスリムを中心とした移民が多く暮らす地域で、ベン・ラービの他、パリ同時攻撃の実行犯3人が育った場所である。ブリュッセルで17日撮影(2015年 ロイター/Yves Herman)
ハリド・ベン・ラービは他の欧州の若者と似たような享楽的なライフスタイルを送り、モレンベークのモスクに行くこともめったになかった。
モレンベークは、ベルギー首都ブリュッセルのなかでもモロッコ系ムスリムを中心とした移民が多く暮らす地域で、ベン・ラービの他、パリ同時攻撃の実行犯3人が育った場所である。
行儀の悪い若者にすぎなかったベン・ラービが冒険と栄光に魅せられて過激派組織「イスラム国」の戦闘員へと転じたのは、過激なイスラム教指導者の説教のせいではない。他の若者がドラッグや犯罪に惹きつけられるのと同様に、スラム地区にありがちな幻滅感のせいだと、近所の人々や地元のソーシャルワーカー、イスラム教指導者らは指摘する。
モレンベークやその他の地域に住む家族は、自分たちの子どもが、シリアでの武勇伝を流布する怪しげな説教師やソーシャルメディア、そして地元の聖戦ネットワークによる影響を受けてイスラム国に勧誘されたことに気づき、ショックを受けることが多い。
べン・ラービは、生活には困らない、映画好きの「普通の若者」だった。だが昨年のある日、彼はシリアでの戦闘に参加するために姿を消し、1月にベルギーに帰国した。23歳だった彼はカラシニコフ銃を手に警察署襲撃に参加して射殺された。
「母親はひどくショックを受けていた。数カ月経った今でも外出しようとしない」と、彼の家族を知る地元女性はロイターに語った。ちょうど警察が13日に発生したパリ同時攻撃の重要な容疑者であるサラ・アブデスラムを追ってブリュッセルの捜索を進めていた。
「彼は友人に会いに行くと言っていた。次に家族が気づいた時には、シリアから電話をかけていた」と彼女は語る。彼の家族はロイターの取材に応じなかった。
ベン・ラービとともにシリアに向かったのが、やはりモレンベーク出身で、パリ同時攻撃の首謀者の容疑を受け、先週フランス警察に殺されたアブデルハミド・アバウド容疑者である。
彼らはインターネットに複数の動画を投稿していた。血なまぐさいものもあれば、滑稽なものもある。
ベルギーのメディアによるインタビューによれば、アバウド容疑者の家族も彼がシリアに向かったことでショックを受けていた。28歳の同容疑者は「観光テロリスト」と自称していたという。当局は、彼が他のモレンベーク出身者を暴力行為に誘ったと考えている。
「シリア問題が私たちを打ち砕いてしまった。家族は打ちひしがれて私たちのもとを訪れている」とモレンベークに22カ所あるモスクの協議会を率いるJamal Habbachich氏は語る。