最新記事
ドーピング

出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗

検査機関自らがドーピングを助けて金を取るマッチポンプ方式で偽造されてきた勝利

2015年11月10日(火)16時38分
コナー・ギャフィー

汚れた栄光 ロシア選手が出場した競技会の結果はもはや信用できない(ロシアのロンドン五輪代表選手、2012年) Mikhail Klimentyev, Ria Novosti-REUTERS

 世界のスポーツ界に衝撃が走った。ドーピング疑惑を調査していた委員会が、ロシアの陸上選手をオリンピックも含む国際競技会から出場停止処分にするよう勧告したのだ。世界反ドーピング機関(WADA)の独立委員会は昨日、最新の調査報告書を発表し、ロシアのアスリートと検査機関による国家ぐるみのドーピングと隠蔽の実態を告発した。

 報告書は、ドーピングを行っていた可能性があるロシアの選手たちが競技に参加したことで、2012年のロンドンオリンピックは「破壊された」とロシア陸上界を厳しく批判。また国際陸上競技連盟(IAAF)の「組織的な怠慢」もドーピング検査の正確性の妨げになったと指摘する。

 元WADA会長のディック・パウンドが率いる同委員会は、選手たちから採取した1417の検体を意図的に破壊したとして、モスクワのドーピング研究所からWADAの公認を取り消すよう勧告。さらにロンドンオリンピック女子800メートルの金メダリスト、マリヤ・ザビノワらロシアの陸上選手5人の永久資格停止処分を求めた。

ドーピングをさせて礼金を取っていた当局

 IAAFのセバスチャン・コー会長は電子メールによる声明のなかで、報告書の内容を「憂慮すべきもの」とし、全ロシア陸上競技連盟(ARAF)への制裁を検討するプロセスに着手したと述べた。

 ARAFとロシア・アンチ・ドーピング機構(RUSADA)からのコメントは得られなかった。

 英BBCニュースによると、委員会が調査に着手したきっかけは、ドイツの公共放送ARDがドーピングと賄賂の蔓延の実態を報じたこと。ARDは、ロシア人選手の最大99パーセントがドーピングを行なっていたこと、またロシア当局は禁止薬物を支給し、陽性の検査結果を隠蔽する引き換えに選手から金を受け取っていたことを暴露していた。

 陸上界は以前からたびたびドーピングの疑いをかけられており、批判が殺到していた。8月には、ARDと英サンデー・タイムズ紙が、2001~2012年にかけての血液検査の結果から、ドーピング違反が疑われる選手が800人以上いるのではないかと報じたばかり。

 今回の告発は、IAAFから流出した大量の血液検査データに基づいている。そのIAAFは、「疑わしい血液検査結果を追求する義務を怠った」とするARDやサンデー・タイムズの批判を否定している。

FIFAの腐敗と比べても桁違いに大きい

 11月はじめには、8月にIAAF会長の座をセバスチャン・コーに譲ったラミーヌ・ディアックと幹部数名が、ロシアの陸上競技連盟から約100万ユーロ(110万ドル)を受け取り、陽性のドーピング検査結果を隠蔽した容疑で、フランス警察による取り調べを受けていた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中