最新記事

歴史

日本が迫られる「戦後」の克服

終戦70年の今も過去にとらわれ続ける日本――。この国の未来を損なう「戦後メンタリティー」とは

2015年8月10日(月)12時00分
横田 孝(本誌編集長)

過去の呪縛 敗戦から70年、日本は今も「戦後」という過去に生き続けている Yuriko Nakao‐REUTERS

 日本人にとって、1945年8月15日は現代史の起点だ。この日を境に日本は平和国家への道を歩み始め、奇跡的な復興を成し遂げ、世界屈指の民主的な経済大国となった。11年後の1956年、経済白書に「もはや戦後ではない」と記され、復興期としての「戦後」の終わりが宣言された。

 しかし、終戦から70年がたとうとする現在も、「戦後」は続いている。「戦後○○年」と表現されるように、今も日本人は「戦後」を生きている。

 もちろん、欧州でも第一次大戦や第二次大戦の節目の年には記念行事が行われる。英語圏にpost war という表現はあるものの、日本のように戦後○○年、といった表現はあまり使われない。アメリカのように、「戦後」という概念が存在しない国もある。多くの国は歴史を記憶に刻みつつ、それぞれ「戦後」を克服してきた。

 日本は違う。日本も周辺国も歴史問題に拘泥し、和解の道筋を見いだせていない。それだけではない。今も「戦後メンタリティー」に縛られ続けることによって、日本は自ら外交や安全保障の議論の幅を狭めている。

 例えば、戦後生まれの政治家は戦中派と比べて戦争の恐ろしさや人命の尊さが分からない、という言説がある。6月、BS番組の討論でこんな質問があった。「首相をはじめ、ほとんど戦争を知らない者で安保法制を議論しているが、危うさを感じるか」

 まるで、あの悲惨な時代を経験していない者は安全保障問題を語る資格がない、と言わんばかりだ。確かに、戦後生まれの世代は戦争の悲劇を皮膚感覚で理解していないかもしれない。だからといって、戦後生まれというだけで安全保障を議論することを「危うい」とするのは、偏狭ではないか。

 時代は変わっている。2015年は1945年ではない。70年間平和主義を守り続けたことによって、日本は1発の銃弾も撃っていない。その事実は誇るべきだろう。

 だが今は冷戦構造で安定を享受できた20世紀後半と違い、日本を取り巻く状況は劇的に変容している。安全保障で他国に依存し続け、自国のことしか考えずに平和を願うだけでは日本の安全を十分守れる状況ではなくなった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国当局、個人投資家の保護措置見直しへ 為替リスク

ビジネス

午後3時のドルは155円半ば、日銀利上げの思惑で円

ワールド

インド、政府アプリのプリインストール命令 全スマホ

ビジネス

インタビュー:対米投資案件、原子力が「重要分野」に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中