ISが標的にするイタリアの古典、ダンテ『神曲』のムハンマド冒涜が凄い
作品中でムハンマドを地獄に落としたことが許せないと、ダンテの墓がテロの標的に
永眠の妨げ ダンテの墓。近くにはダンテ博物館も WIKIMEDIA COMMONS
13〜14世紀に生きたフィレンツェの大詩人ダンテの墓がテロリストに狙われている。
ダンテの代表作である壮大な叙事詩『神曲』には、イスラム教の預言者ムハンマドが登場する。それも、イスラム過激派の逆鱗に触れそうな描き方だ。ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に共鳴するイタリア国内のテロリストがダンテの墓の破壊を計画しているとみて、イタリアの治安当局は警戒を強化している。
イタリアの新聞ジョルナーレは、北東部の都市ラベンナにあるダンテの墓が重点的なテロ警戒区域に指定されたと伝えている。
では、いったいどんな描き方なのか──。
『神曲』第1部地獄篇には、「欺瞞の罪」で地獄の第8圏に落とされたムハンマドとダンテの架空の出会いが描かれている。ムハンマドは悪魔に胸を切り裂かれ、内臓が垂れ下がった、見るもおぞましい姿になっている。ムハンマドの娘婿アリーは、顎から額まで顔を真っ二つに割られている。
ダンテはこの2人を「生前に不和と分裂の種を撒いた者たち」と形容している。ダンテの時代には、イスラム教はキリスト教から分かれた異端の宗教とみられていた。『神曲』の記述にも、その時代の思潮が色濃く影を落としている。
カトリック教会には文句なしの大芸術家だが
ダンテの『神曲』は以前にも「イスラム教への偏見を煽る」書として問題になったことがある。イタリアの人権擁護団体「ゲルーシュ92」は、イスラム差別に加え、「人種差別や反ユダヤ主義的な内容」があるとして、『神曲』を公教育のカリキュラムから外すよう国連機関に助言した。
しかし、英ノッティンガム大学神学部の教授で、ダンテ研究の専門家アリソン・ミルバンクによると、ダンテを「イスラム嫌い」とみるのは誤りだ。「ダンテの描く地獄にひしめいているのは、おもにキリスト教徒たち」だと、ミルバンクは指摘する。
さらに『神曲』では、十字軍に勝利したイスラムの英雄サラディンや、イスラムの哲学者アベセンナ(イブン・シーナー)とアベロエス(イブン・ルシュド)が、古代ギリシャ・ローマの英雄たちとともに死後の楽園エリュシオン(辺獄)にいることになっている。ミルバンクによれば、これもダンテがイスラム嫌いでないことを示す証拠だ。
ダンテは晩年をラベンナで過ごし、1321年に死亡した。市の中心部に18世紀に建設された墓に遺体が収められている。墓の近くにはダンテ博物館がある。